『夜明けの詩 月夜の涙』
 

破章『終末の始まり』

そして、終戦と共に雨はやんだ。
高台から見下ろすラヴェナの街には、まだ所々に、戦闘の名残である黒い煙が立ち上っている。
あの時突如としてこの街を蹂躙したサヴォ兵の姿はもはやどこにもない。つい先ほど、フェナシエラ国民が夢に見た、ラヴェナ奪還の方が、届いたばかりだった。
「…漸く、終わりましたね」
ホセは、自分の前にたつ新たな王に話しかける。彼は僅かに苦笑を浮かべながら省みた。
「どうだか…。まだ、俺が認められたと言う訳じゃない…。みんな、カルロスが帰ってくるのを、信じて疑っていないんだ。それを…」
「こんな所にいたのか。姿が見えないからとっくにやられたかと思ったぞ」
沈痛な彼の独白は、第三者の言葉によって遮られた。現れたのは、細身の肢体を飾り気のない甲冑で覆った、一人の女性だった。
「そっちこそ…とっくの昔に戻ったのかと思った。まだこんな所に残っていたのか?シシィ」
シシィと呼ばれた女性は、僅かに笑みを浮かべながら歩み寄る。そして同じく高台から城下を眺めやりながら言った。
「私の居場所は、私が決める。そう言わなかったか?」
そう言うと、シシィは顔反面を覆い隠していた長い前髪を煩げに掻き上げた。左目の上に残る傷跡が露わになる。知っているとはいえ、元々が端整な顔立ちのためそのあまりの痛々しさのため、二人は言葉を失った。
「そうそう、マルガレーテ陛下への使いはもう出しておいた。じきにお前の即位を認証する使者が着くだろう」
それを全く気にすることなく、シシィは肝心なことを口にした。大国の一つに数えられるプロイスヴェメ王の承認を取り付ければ、それに異議を唱えるような命知らずの国も無いだろう。だが、この知らせに当の本人はあまり浮かない顔だった。
「どうした?何か不服なのか?」
「いや…俺の即位よりも先に…あいつを…」
彼はホセとシシィ、両者の顔を、見やりながら言った。
「カルロスをここに、返してやりたい」
「…バル…」
思わず言葉に詰まるホセの肩を、シシィは軽く叩いた。
「なんて顔してる?それもさっきの使いと一緒にヴェメに送った」
私がそんな人でなしに見えるか?そう言い笑うシシィに、漸くバルの顔に笑みが戻る。
やがて、遙か彼方から、光が射す。
新たなる夜明けが、訪れた。

破章『終末の始まり』完

 

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