AGAINsideA
エピローグ

 

突然の首筋への冷たい感覚に、ジャック=ハモンドは僅かに椅子から飛び上がった。慌てて振り向くと、そこには穏和な笑みをたたえたエドワード=ショーンが、よく冷えた缶コーヒーを二つ持って立っていた。
「こんな所で寝ていたら風邪を引くよ」
「生憎、自分は特異体質なんでね。その心配はないよ」
負け惜しみを言ってから缶コーヒーを受け取る。目の前にエドワードが座るのを待ってから、ジャックは徐に缶を開けた。
「でも、顔色が悪いじゃないか」
痛いところをつかれてジャックはむせ返る。そして、観念したかのように口を開いた。
「患者の意識が、さっき戻ったんだ…けど…」
「…駄目だったのか?」
エドワードの問にジャックは無言で頷いた。
「予想されていたとはいえ、現実を突きつけられると、さすがに堪えるよ」
そうだね、と言ってからエドワードは缶をテーブルの上に置き、足を組み直した。
「何だか、今は、ニコライの気持ちが、解るような気がするよ」
不意の言葉に、ジャックは耳を疑った。僅かにその身を乗り出す。
「え…じゃあ、無事生まれたのか?」
こんな時に自分一人喜んでいて申し訳ないけれど。そういいながらエドワードは頷いた。そしてふと、神妙な面もちで呟いた。
「人は…守るべき物を持つと強くなれると言うけれど、それは同時に、この上なく脆くなることなのかもしれないね」
「…何?」
聞き返すジャックに、エドワードはいつもと変わらない静かな笑みを浮かべて見せた。
「いや…守るべき物の為ならどんなことでも厭わなくなるってことは…それは恐いことだなあと、ふと思ったのさ」
変なことを言ったね、忘れてくれても良いよ。エドワードは笑いながらそうは言ったが、その言葉は、いい知れない不安をジャックの心中に植え付けていた。
既に空になった缶を手に、エドワードは立ち上がった。
「じゃあ、僕はもう少しやることがあるから、これで失礼するよ。あまり無理しないようにね」
「ああ…」
殆ど上の空で、ジャックは立ち去るエドワードを見送る。その脳裏には、先ほどの言葉がぐるぐると回っていた。
自分が今、作り出してしまったモノと、これから作り出すモノと、出会うモノと…。
不安とも、恐怖とも付かない感情が、不意にこみ上げる。

真っ白い廊下と壁に、エドワードは溶けていった…。

 

AGAIN
end

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