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〜after the AGAIN(in TERA)〜

「ざっと目を通しただけですが、防犯システムの脆弱な部分及び、今後『穴』となりうる危険性がある箇所に関しては、応急処置を行っています。マーキングをしてありますので、早急に修正をお願いします」
薄暗い廊下に、規則正しい靴音と、感情は微塵も感じられない平板な声が響く。その声の主は、無表情に鈍く輝く硝子色の瞳で、真正面を見据えたまま歩みを止めようともしない。その後を追うジャックは、まるで苦虫を噛みつぶしたような顔で、男の背中を見つめている。
「…一体どういうことだ？」
「外部からの侵入に伴う改竄も、可能な限り修復しました。が、短時間でしたので見落としがあるかもしれません。念のため覇王樹主任研究員殿に再確認をお願いしていますが、何分膨大な量ですので支援を…」
「…そうじゃなくて」
やや、ジャックの声のトーンが上がる。
「何か、ご不明な点でも？」
あくまでも無表情を決め込むNo.５に、ジャックは乱暴に癖毛の白髪頭を掻き回した。
「…何時から思い出していたんだ…エド…」
苛立たしげに立ち止まるジャックに、始めてNo.５は足を止めた。静けさの中、普段であれば全く気にかからない空調の鈍く低い音が、やけに耳につく。それを破ったのは、それまでとは違う、穏やかな声だった。
「正確にはわからない。…ただ、眠っている間、夢を見ていたのは、確かだと思う」
言いながら振り向いたその顔には、ジャックが良く知る、どこか困ったような、それでいて少し寂しげな微笑が浮かんでいた。
「…エド…やっぱりお前さんなのか…？」
「…僕は君みたいな専門家じゃないから良くわからないけれど…きっかけになったのはこの間のマルスかもしれない。良くも悪くも、懐かしい人に会ったからね」
なんてこった、そうでもいわんばかりにジャックは深々と溜息をつき、両手で頭を抱える。十数年ぶりの皮肉な『再会』に、彼は自らの運命という代物にに感謝したくもあり、また呪いたくもなった。そんな途方に暮れる旧友に、当の張本人はかつてと寸分違わぬ姿で以前と全く変わらぬ微笑を浮かべながら、元気そうで何よりだよ、と言った。
「…すまない…なんてお詫びしたらいいか…お前さんだけでなくて、奥さんや、お嬢さんにも…」
消え入りそうなジャックの言葉に、返答はない。薄暗い廊下に、再び靴音が響く。慌ててジャックは顔を上げ、その跡を追おうとした。歩みを再開したNo.５…エドワード＝ショーンは、前方を見据えたまま、不自然に押し殺したような固い声で呟くように言った。
「それならば一つ、教えて欲しいことがあるんだけれど…」
小走りにジャックはエドに並びかける。だが、彼はその顔を見ようとはしない。
「教えるって…自分に解ることならば…」
「僕は後、どの位こうしていられるのかな？」
前触れのないこの問いかけに射抜かれたように、ジャックは立ちつくす。立ち止まりこちらを振り向くエドの顔は、意外にも先程とは変わらぬ穏やかな微笑のままだった。
「…どの位って、…それは…」
「自分のことは自分が良くわかるよ。…この左手もまだ少しおかしいみたいだし、たぶんそんなに時間は無いんだろ？」
どうやら彼には、消去されているはずのNo.５として稼働していた時の記憶さえも残っているらしい。悔いは残したくないからね、と言いながら悪戯っぽく片目をつぶってみせるエドに、ジャックはこの日何度目かの深い溜息をついた。
「そう…確実なことは言えないが…あと２回…いや、もしかしたら１回が限度かも知れない…。細胞の老化速度が、加速度的に進んでいるんだ。こればかりはお前さんの、持って生まれた寿命なのかもしれない」
言い終えてからジャックは力無くうなだれる。そんなジャックにエドは歩み寄り、その肩を数度、ぽんぽんと叩いた。
「２回も君と今生の別れをしなければいけないなんて、何だか妙な気分だね」
冗談めかしたエドの言葉に、ジャックは慌てて顔を上げる。穏やかな表情のエドの顔が、すぐ間近にあった。
「けれど…あの『穴』が見つかるなんて、尋常じゃないな…。少し嫌な予感がする」
だが、硝子色の瞳はすぐに鋭い光を放つ。その視線にただならぬ物を感じ、ジャックは慌てて姿勢を正す。
「お前さんをしてそう言わしめるとは…相手は相当な者かな？」
ジャックの問いかけに、エドは無言で頷いた。
「改竄されたプログラムを見る限り、これで終わりと思わない方が良いと思う。近いうち…とは言い切れないけれど、何らかのアクションがあるかもしれない。その時に備えて、僕は早めに寝ることにするよ」
ああ、と言いかけて、ジャックは息をのんだ。そして目に前に立つ『旧友』の顔をまじまじと見つめた。
「って、おい…エド、まさか…」
「自分で作ったシステムは自分で守るよ。だからそれまでは無駄に起こさないでくれよ」
それじゃあ、と言い残してエド…No.５はきびすを返す。暗さを増す廊下に、彼の姿は吸い込まれるように消えていく。その姿を、ジャックはただ身動きも出来ず見送ることしかできなかった。

…そして、エドの『予言』が現実となるまで、さして時間はかからなかった…。

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