終章

 

「命に善人悪人の違いはないわ。綺麗事とは分かっているけれど…結果的に私の行動が、解決を遅らせたことに代わりはないわ」
雑踏の宇宙港ロビーの中、そこだけ空気が違っているようだった。
「惑連は、私の行動を、I.B.への協力と取るかしら?そうするとペナルティは公民権停止程度ですむかしらね」
「…少なくとも、死者が一人も出なかった点では、博士の行動は評価されると思います。…例の件も、脅迫による物と判断されると思いますので、特には…」
僅かに離れたところに座る黄小龍大尉は、キャスリン=アダムス博士とは目を合わせようとはせず、事務的に返答した。その様子を楊香、デイヴィット=ロー両中尉はにやにやしながら見ている。
「でも、全ての命を救おうとするのは間違っているのかもしれないわね。…ニックはその一線を越えてしまった。私は彼に着いていけずチームを逃げた。…一番辛い思いをしたのは、残ったJかもしれないわね」
博士の独白は、更に続く。
「『サード』はまだ息があったの。あの時点では『治療』だったんだ、と無理矢理思いこむことは出来たわ。でも、エドは…既に息はなかった…」
「…エドワード=ショーン技術士官の事故、ですね?…ここに来る前に、Jから聞きました」
思いもかけない一言に、一同の視線はデイヴィットに集中した。
「J…ジャックを知っているの?」
「一応…自分たちにとっては親代わりみたいな物ですから…失礼かと思いましたが、経緯は全てJから」
知っていたなら報告しろ、とでも言わんばかりに睨み付けてから、小龍は初めてアダムス女史に向き直った。
「あの…『ドライ』が言うに、小官はショーン技術士官と似ているそうですが…」
一瞬の空白のあと、アダムス博士は寂しげに笑った。そしておもむろにバッグの中から『何か』を取り出した。
「確かに似ているわね…髪の色も、瞳の色も違うけれど…」
それを見て、デイヴィットは小さく声を上げた。目の前に出された写真は、Jの部屋に貼られていた、色あせた写真に他ならない。ただ、Jの物では破り取られていたある人物の顔が、そこには残っていた。
中央に豪快に笑うジャック=ハモンド、左手側に斜めに構えたニコライ=テルミン。そして、右側に静かに微笑むのは…。
「…少佐殿…?」
脇腹を楊香に小突かれて、デイヴィットは慌てて口をふさぐ。幸いその声は耳には入らなかったらしい。僅かに視線をあげてから、博士はジャックの写真では失われていた顔を指さして、言った。
「これがエドよ。…これが最後の写真になるのよね…」
4人の間に沈黙が流れる。アナウンスがテラ行きの船への搭乗が開始になったことを告げる。
「時間ね。色々ありがとう。…じゃ」
再び写真を大切そうにしまうと、アダムス博士は立ち上がった。僅かに会釈を残すと、彼女は足早に雑踏の中へと消えていった。残されたモノたちの間に、気まずい空気が流れる。
「…博士は、自分たちの『正体』を、知らないんですよね…?」
確認するように呟くNo'21に、No'17は僅かに頷いた。
「どちらにせよ、話すわけにもいかないでしょ?…よけいややこしいことになるし…どうしたの?」
No'17の視線の先には、うずくまるように頭を抱えるNo'18の姿があった。
「結局…俺は…少佐殿のコピーでしかないってことかよ…」
低く漏れるNo'18の言葉に、両者は顔を見合わせる他なかった…。

それぞれに傷を残し、事件は一応の解決を見た。
だが、それに続く危機は、すぐ目前に迫っていた…。

the PASSION end

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