AGAINsideA
act6

しかし。
喜々としているしている王樹とは対照的に、デイヴィットの表情に鋭さが増す。その変化に気付き、王樹はふっと顔を上げた。
「…何?どうしたの、深刻な顔して」
「いえ…今、自分の中のデータを総チェックしてみたんですが、そう言った項目が見あたらないので…」
「…君、まさか知らないの?研究棟の七不思議」
生真面目な顔をして答える王樹に悟られぬよう、デイヴィットはこの日何度目かの溜め息をついた。
「失礼ですが…あれ、本当なんですか?」
「さあ、一度試してみたいとは思っていたんだよね」
呆れたようなデイヴィットをよそに、王樹は妙に自信たっぷりで答えた。最早、何を言っても無駄だ。だが、念のため、彼はもう一度釘を差す。
「じゃあ、主任研究員殿はもちろんパスワードもご存じなんですよね?」
「…Dearest Alicia」
不意に王樹の顔からお茶らけた笑みが消えた。その視線はいつになく真剣に目の前の端末を見つめている。そこへ、申し訳なさそうにクレアが口を挟んだ。
「最愛なるアリシア…?どなたなんでしょうか」
それに対する王樹の口調は、今まで聞いたことのないくらい、真剣で深刻な物だった。
「かなり前…不慮の事故で亡くなった研究員がいたんだ。彼、まだ新婚で、お嬢さんが生まれたばっかりだった」
「じゃあ、仕掛けたっていうのは…?」
全てを理解したデイヴィットに、王樹は頷いて答える。そして改めてクレアに向き直った。
「その人のお嬢さんの名前がアリシアっていうんだ。…でもま、学校に伝わってる怪談みたいなものだけどね」
冗談もいささか、いつになく歯切れが悪い。何時しかデイヴィットもそれにつられ、真剣な面もちになっていた。
「やってみましょう…。万一パスワードが違うようでしたら、自分が可能性有る単語をサーチします」
その言葉に、王樹は長く口笛を吹いた。先ほどまでのしんみりとした表情は既にどこかへ消し飛んでいる。ぱきぱきと指の関節を鳴らしながら、王樹は今一度端末へ向かった。
「そうこなくっちゃ。でももしこれがメインシステムのオールデリートのパスワードだったら一緒に責任とってね」
「そんなのも有るんですか?」
「噂だよ。ウ・ワ・サ
Y第一、これ以外にも候補なんてざらざらあるし、情報が錯綜してるから、どれがどのパスワードなんかわかんないよ」
だが、口ではそう言いながら、彼は既に例の単語を打ち込み、エンターキーを押していた。止める機会を失ったデイヴィットは為す術もなくそれを見守る。やがて…。画面上に変化が起きた。

Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia Dearest Alicia …

それまで不気味にI.B.の名を映し出していたディスプレイが、例のパスワードに浸食…そう、まさしく浸食という表現が相応しいだろう。黒い画面に真っ白な文字が踊る。埋め尽くされていく。スクロールを繰り返しても同じ文字列が並ぶ。
そしてついに文字の洪水が収まった。
画面から例の文字列が消え、仄明るいいつもと同じ光彩が戻る。
『…中尉殿〜無事ぃ〜?』
間延びした女性の声が、No.21の脳裏に直接響いてきた。
そして、ほぼ同時に、室内の照明が復帰した…。

 

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