AGAINsideA
act8

「…で、籍も役職もそのまま継続してますんで、戻られた後も引き続き…」
「わかってる」
足早に歩きながら小龍はデイヴィットの言葉を遮った。あわてて言葉尻を折られた方はその後を追う。
「もっとも頭が消えたんだ。先方さんもしばらくは目立った動きは出来ないだろう。せいぜいゆっくり復旧させてもらう」
独白にも似た言葉が小龍の口から漏れる。
例の『爆発事故』から一週間あまり。結局ことの真相は有耶無耶なまま、闇の中に葬り去られようとしている。惑連お得意の情報統制さ、と、先ほど顔を合わせるなり小龍は吐き捨てていた。
大まかな事実はデイヴィットも後で知らされてはいたが、それはあまりに大まかすぎた。目の前の小龍は何が起きたのか、最前線で見ていたとのことなのだが、何を見たのかと聞けるほど彼に度胸はない。
「すみません、後、軍服の件ですが…」
「不要だ」
ぶっきらぼうに言い放つ小龍に、デイヴィットは2.3、瞬きをする。その様子を知ってか怪訝そうに振り返る小龍に、彼は食い下がった。
「けど…一応届けると言うことになっているようなので…」
「わかった。勝手にしろ」
しかし、我ながらずいぶんな物言いだな。言ってしまってから小龍は思った。そしてふと横を見ると、そこにいるはずの『後輩』の姿が見えない。視線をさまよわせると、彼はなにやらプレス関係者とおぼしき女性に呼び止められていた。
何をしているんだ、と思いつつ相手を伺う。今まで会ったことはないにも関わらず、小龍は相手の女性に既視感を感じた。やがて、こちらに気がついたのか、女性は小龍に頭を下る。つられて会釈を返すと、彼女はデイヴィットにも何度か頭を下げてから、人混みの中に消えていった。
「すみません。…マルスの件での関係者の方なんですが」
その一言で、先ほどの既視感に合点がいった。
「…レディの片割れか」
「その言い方は少し語弊があると思いますが」
ややムキになって言い返すデイヴィットに、小龍は短く口笛を吹いて見せた。
「…お前も隅には置けないな」
「…はあ?」
思いもかけない一言に、デイヴィットは間の抜けた返事を返す。そんな様子に珍しく微笑を浮かべながら、小龍は片手を上げた。
「世話になったな。じゃ」
度重なる予想外の反応に、デイヴィットは唖然としながらその後ろ姿を見送っていた。

 

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