ANOTHER LINKS〜the dolls〜 act12

行方不明者の捜索は一向に進まない。
粉々に崩れ落ちたホテルの残骸を片付けるのに予想以上に手間取っているようだ。時折発見され担架に乗せられて搬出される遺体も状態はあまり良くなく、外見だけでは身元の確認は難しいだろう。最悪、一部しか発見できない可能性もある。テラ惑連から二人の骨格データや登録されているDNAパターンを取り寄せる必要があるかもしれない。
ぼんやりとそんなことを考える桐原であったが、不意にその時内ポケットの携帯電話が鳴った。忌々しげにそれを取りだしたが、相手の声を聞くなりその顔に不愉快さが滲み始めた。
『ずいぶんと忙しそうじゃないか、桐原さん』
「話が違うじゃないか。一体これはどういう…」
押し殺した声で、苛立たしげに言う桐原に対し、電話口から返ってきたのはくぐもった笑い声だった。
『どうやら若い奴らが暴走したようだ。ボスもかなりお怒りになっている。尤も…』
一瞬の空白の後、『声』は信じられない返答をした。
『今回の一件も、ホテルへの攻撃も、ボスは関与していない。これは事実だ』
なんてこった。そう口には出さず、桐原は心の中で毒づいた。短く舌打ちすると、彼は周囲に視線を巡らす。誰も自分を気に留めていないことを確認すると、彼は身を屈めるようにして電話に口を寄せる。
「ちょっと待て?一体どういう意味だ?確かにM.I.B.の名で…」
『仰るとおり、行動を起こしたのは我々の組織の一員だ。だが、計画を実行に移すに際してボスの許可を得てはいない。それであいつらが…』
言葉の後半は、桐原の耳には入ってこなかった。呆然と電話を握りしめて立ちつくす桐原を、周囲の関係者らは遠巻きにして様子をうかがっているだけだ。
ほぼ白紙状態の桐原の脳裏に、電話の声はさらに語りかけた。
『まあ、ボスにしてみればどっちに転んでも良かったんだがな。成功すりゃ大量の活動資金が転がり込む。失敗しても余計な奴らが我らが故国に入っては来なくなる。結果、Mカンパニーの資金源が絶たれる』
面白くて仕方がない、とでも言うような笑い声が電話から漏れる。その声にようやく桐原は正気に返った。
「そんなことはどうでも良い。人質は…彼らは無事解放されるんだろうな?」
『さあな。跳ね返りが勝手にやったことだから、我々としても何とも言えない。じゃあ、桐原さん、無理するなよ』
再び笑う声。そして電話は一方的に切れた。桐原は発信音だけが聞こえる電話を握りしめたまま、虚ろにホテルの残骸を見つめていた。

小さなキッチンに、ベッドルームが二つ。そしてリビングには小さなテレビ。典型的なマンションの一室に彼らはいた。ホテルの地下駐車場からどさくさに紛れて脱出し、フォボスのダウンタウンにある単騎滞在型マンションへと逃れてきたのだ。人から隠れるには、人に紛れる、と言うわけである。
「ここの資本はテラで…大株主にテラ惑連の幹部が名を連ねています、Mカンパニーや、マルス、フォボスの惑連とは無関係なので、まず、安全だと思います」
そのデイヴィットの言葉を裏付けるかのように、受付で惑連のI.D.カードを提示しただけで、無条件でこの部屋に通された。恐らく受付の人物も、惑連OB、もしくは現役の職員なのだろう。
ひとまずベッドにスミスを落ち着けて、状況確認のためデイヴィットはテレビのスイッチを入れる。どのチャンネルを回してみても彼らが止まっていたホテルの爆破を流し続けている。どうやらかなりの死者が出、彼ら以外にもまだ行方不明になっている人がいるようだ。
「…どうやら我々は運が良かったようだな」
僅かに開いた寝室のドアの隙間からスミスの声が聞こえてくる。リビングからのテレビの音声を漏れ聞いてのことだろう。
「我々、じゃなくて、貴方の運が良かったんですよ。自分は作り物ですから、『運』の恩恵なんて有るかどうか」
だが自嘲にも似たデイヴィットの言葉に対する返答はなかった。確かに返事には困るだろうな。そう『考え』直して彼は再びテレビへと視線を移した。
各番組からの情報を統合してみみると、現在の所解っているのは以下の通りである。
まず、ホテル崩壊の原因となったのは、南西の方向から撃ち込まれたロケット弾である、と言うこと。
次に犯行声明は今の所どこからも出されていない、と言うこと。
そして、紅リゾートのM.I.B.もまた沈黙を守っている、と言うこと。
まったくもってテロリズムは我々の、そして自由の敵ですね…そう画面の中の『見識者』が締めくくったところで彼はスイッチを切った。それからマルス惑連のデータベースへと非公式回路からアクセスを試みる。だが得られた情報はテレビから得られたそれと大差がなかった。
マルス惑連の情報収集能力がお粗末なのか、メディアの取材力が見事なのかは定かではないが、何とも情けない限りである。少々呆れながらデイヴィットは灰色になったテレビの画面を見つめていた。
小さく溜息をついてから彼は改めて室内を見回した。自分はともかく、少佐殿には何か食べて貰わないと。大して期待せずに部屋の片隅に置いてある冷蔵庫の扉を開けてみる。中には予想に違わず数種類の飲み物と、つまみが入っていた。後で買い出しに行って、何某か仕入れてくるしかなさそうだ。
苦笑を浮かべながら扉を閉めると、デイヴィットは勢い良くソファへ倒れ込んだ。

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