Act11

 

四方を壁と扉で囲まれた狭い部屋に、もうどれ程長い事拘留されているのか、 馬鹿らしくて思い出す気にもなれない。数日に一回、検査と称して連れ出される以外 この部屋から出る事もなかった。ただ一度を除いて。
壁にもたれながら、クレアは珍しくため息を吐いた。 彼女の腕には、「検査」で刻まれた無数の傷がある。No’21が以前サーチした物である。
しかし、それらの傷はその深さに反比例するようなスピードで治癒しつつあった。そして その事実を何より気味悪く感じていたのも彼女自身である。
ただ一人、そんな彼女を 歓喜の目で見つめる者がいた。「博士」と呼ばれる人物の、狂気に満ちた視線を、 クレアは以前にも見たような気がした。けれども、それが何時の事だったのか、 どうしても思い出す事が出来ないでいた。
この間、分厚いガラスを通して会った惑連の捜査官、そしてクレオ支部長は無事だろうか、ふと思いを巡らしたとき、クレアは直感的に感じた。『おかしい』と。
厚い扉の 向こうから、慌ただしさが伝わってくるのが分かった。 それとほぼ時同じくして、通常決められた時間外には開かないはずの扉が、ゆっくりと 開いた。驚くクレアの目の前に現れたのは、青ざめたMPであった。
しばらく空ろな目で 彼は呆然と立ち尽くしていたが、背後からの靴音にふと我に返った。おもむろに彼はクレアに歩み寄ると、その背後に回り、扉の方に銃口を向けて、叫んだ。
「く、来るな!!き…来たら打つぞ!!」
一オクターブ高い声に応じるように、もう一つの人影が現れた。MPの物と良く似た、 しかし微妙に異なる宇宙軍の軍服を来ている事は理解できたが、逆光で顔は見えない。言葉が出ずに唖然とするクレアに対し、MPは震える手で銃を握り締めた。
「や、やめろ!来るな、化け物!!」
そのままMPは引き金を引いた。幾筋もの光が交錯するが、ねらいが定まらない。それを理解しているのか、まったく動じる様子もなく、人影はゆっくりと近づいてくる。光の加減で、生気のないガラスの瞳が鈍く光る。クレアはその顔に見覚えがあった。
「うああああああ!!!」
絶叫と同時に、MPは至近距離なのにも関わらず銃を乱射しつづけた。一条の光が、 目前の進入者の左手を貫いた。 鈍い音と同時に、進入者の左手が後方にちぎれて飛んだ。金属質の血の匂いではなく、 なんとも言えない腐臭が、周囲に漂う。
しかし表情一つ変えずに、『彼』はMPの前に立ち 右手のブラスターをMPの眉間に当て、トリガーを引いた。クレアが目を閉じ、耳をふさぐ 前に、カチリ、という乾いた音が響いた。
「あいにく,生殺与奪の権限は与えられていない」その言葉が終わらぬうちに、MPは失神していた。

 

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