act13

 

「…応答せよ!こちらMカンパニー、惑連、応答せよ!!」Mカンパニー地下、セキュリティ室では、先刻から緊迫した雰囲気の中、惑連との 直接通信を試みようとしている。しかし、何度試してみてもむなしく呼び出しのランプが ともるだけだった。
「先刻からこんな調子です。非常のランプが一度点いたんですが」
「そのアラームは、いつついたんだ?」
「…17時…前後かと」
「なぜ早く知らせない?!」
プライス社長の怒声に、オペレーターは小さくなった。無理もない。社長が根連絡を 受けたのは、事態が起きてから3時間はたっていたのだから。
「まったく。どいつもこいつも」
そこまで言いかけてから、社長は言葉を飲み込んだ。背後からのテルミン博士の陰湿な 歓喜の視線を感じたからだ。一つ深呼吸をして平静を繕ってから、社長は振り返った。 一応年長者を立てて、意見を乞うた。
「いかが思われます?以前中央にいた人間としての見解は?」
「2条の発動だな。予想以上のよい展開だ」
低く笑うテルミン博士に対して、社長はいまいましげに、かつ本人には聞かれないように 低く舌打ちをした。 元々気に食わない奴だ、と思ってはいたが、これほどまでに憎らしく思えたのは この時が始めてだった。その上、目前の「墜ちたエリート」は、若社長の反応を一々 楽しんでいるようにも感じられた。
「2条の発動?我々にも理解できるように説明していただけますか?」
しかし、この場は博士に頼らないわけにはいかない。苦虫をかみつぶしたような顔で 尋ねるプライス社長に対し、テルミン博士はさらに憎悪を掻き立てるように、得意そうに 笑ってみせた。
「惑連法の裏、といわれる特例の2条だ。職員でも一部のものにしか正確な内容は 知らされてはいない」
「…つまりはどういう事です?」
事態は一刻を争う。それなのに前置を語る時間があるのか。口には出さないまでも、 社長の言葉の端々にそれを感じ取ったのか、ようやく博士は、彼のスポンサーを からかうのを止めた。
「特務が出てきたということだ。恐らく今ごろ、あの建物で一騒動…いや、終わった ころか」
社長にとって不吉極まりない予言が成就するまで、さほど時間はかからなかった。 それまで沈黙を保っていた回線が、突然開いたのである。
「社長、つながりました!!」
オペレーターを押しのけるようにしてマイクの前に陣取ったプライス社長は、 すぐさま通信をONにした。しかし、相手側が映し出されるはずの前方のスクリーンは 砂嵐のままである。ヘッドホンからは抑揚の無い声が、録音を再生するかのように 淡々と事実を繰り返し告げていた。
『繰り返す。こちらマルス惑連。本日一七〇〇をもち、特例2条の発動に伴い、 通常の職務を停止する…』
先刻聞いたばかりの単語に、プライス社長は悪寒を感じた。だが、確かめなければ ならない。
「待て!貴官の所属と姓名は?テロによる制圧ありと、テラに通報する!!」
一瞬、カセットテープのような声が途切れた。双方に緊迫した空気が流れる。 ややあって、それまでの声が無感動に告げた。
『現在、マルス惑連は、シリアルID012・00・005が総指揮を執っている。以上』
そして通信は一方的に切れた。社長が命令するよりも早く、一人のオペレーターが IDをデータベースに照合する。そして程なく結果がはじき出された。ほとんどの情報がunknowとされている中、その所属だけが不気味な存在感を放っていた。
「う…宇宙軍…特務…」
血の気を失っていく社長の耳に、テルミン博士の冷静な声が飛び込んできた。
「No’5か。相変わらず見事のものだ」そしてこの時始めて、プライス社長は自分の行ったことの重大さに気がついたのである。
「…どうします?もう一度つなぎますか?」
「いや、そのまま待機。向こうからつないでくるまで動かすな」
オペレーターの問いに、社長はようやくそう答えると、力なく頭を揺らした。

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