act15

 

思いがけないNo.5の言葉に、一同の視線はそちらに集中した。足を組み直しながら スクリーンを凝視しつづけるNo.5に、No.21はおそるおるといったように尋ねた。
「茶番って…どういう事です?」
「惑連はMカンパニーに以前から目はつけていた。しかし証拠に欠け、手出しできなかった」
一度言葉を切ると、No.5は改めて各々の顔を見回した。だが、ただ一人、カスパー支部長 だけがばつが悪そうに、その視線から目をそらした。納得したように一つ肯くと、No.5は言葉 をついだ。
「内部事情に絡んだ事件の捜査を口実に、惑連はわれわれを派遣した。…何らかの危険を 伴うと上が判断しなければこのような事はありえない。だとすれば、」
「別件捜査の可能性、ですか?」
No.21の言葉を、No.5は肯定した。
「Mカンパニーが我々に対して素直に協力すれば当面はシロ。抹消に動けばクロ。そして 現実に惑連は賭に勝った」
そこで再び、No.5は息をついた。一同はあまりの事に声さえも出せずにいる。
「…きっかけは多分、群発地震と先ほどの衛星写真だろう。あの地下で化学兵器の大規模実験 でもしていたんだろう」
一片の感情も込められていないNo.5の声は、皮肉を通り越して他人事を話しているかのようで あった。重い沈黙が流れる中、突然アラーム音がひびく。テラ惑連から先刻注文した資料が 届いた事を知らせるものだった。
「しかも当局に都合が良い事に、あなたが被疑者だった。それだけでも惑連が動いた時点で 先方にかなりのプレッシャーを与える結果となったのです」
その言葉が自分に向けられている事に気づき、クレアは2、3度瞬きをした。軽く肯いてから No.5は立ち上がり、端末に歩み寄った。慌ててクレアもその後を追う。No.21の操作で画面上に ある人物のデータが映し出されていた。その顔写真を見て、クレアは小さく悲鳴を上げた。 狂喜の笑みを浮かべながら実験を指揮していた、まさにその人だったからである。
「これから先は、あなたに説明していただきましょう。…支部長殿」
画面を目で追うNo.5の言葉に、支部長は青ざめながら後ずさった。
「ご、ご冗談を…いきなり何をおっしゃるんです?」
そう言って支部長はNo’5の言葉を笑い飛ばそうとしたが、不発に終わった。 その間もNo’5のガラス色の瞳は次々とデータを吐き出す画面に固定され 支部長を顧みようともしない。ただ、冷たい言葉だけが投げかけられた。
「では質問を変えましょう。以前にも言いましたが、我々の存在は惑連の 最高機密です。…我々を知る、退官した者に対しても、それなりの対応がなされています」
抑揚の無い声が容赦なく支部長に向けられる。その時点でようやく、感情の無い No'5の視線が支部長に突き刺さった。
「つまり、どこから漏れるかは把握できるということです。しかしあなたには それらの人との接触が認められない」
「いや、それは従軍記者として…」
「残念ながら、我々は『軍隊』の戦闘には参加していません。それに 長官クラスに随行するようなあなたではないはずです」
何とも言い難いクレアの視線が支部長に向けられる。それに気づき 支部長は大きく息を吐き出した。
「降伏しましょう…何より真実を隠すのは私の性に合わない…ただ」
心配げな支部長に対して、クレアはわずかに笑みを浮かべうなずいた。それを観て 支部長は安心したようだった。
「まだ一介の下っ端のころでしたよ、こいつに会ったのはね…」
画面の中でわずかに誇らしげな笑みを浮かべているテルミン博士に対し、 支部長は回顧とも憎悪ともつかない口調で語り掛けた。
「あのころ、こいつはすごい奴だった。人体工学と医学じゃ惑連で右に出るものは いなかったんじゃないかな…始めてあったのは、なんかのレセプションでしたが」
そう言うと、支部長はモニターに歩み寄り、その上部を2.3度叩いた。

 

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