act17

 

久しぶりに帰宅した家の中は、真っ暗闇だった。その誰もいない闇の中に、 何か蠢くものを感じ、博士は立ち止まり、護身用においてあるはずのブラスターを手探りで 探した。
「お探しのものはこれですか?」
その博士の背後から、突然声がした。と、同時に明かりが点く。ぎょっとして振り向く 博士の目の前に、見覚えのある顔があった。
「お前か…まさかこんな所まで来るとはな、No’5」その姿を認めた博士の瞳に狂喜の光が宿る。ブラスターをと手を差し伸べる博士を 冷たく一瞥すると、No’5はその銃口を静かに博士に向けた。
「な…なんのつもりだ!」
驚き後ずさる博士に、No’5は抑揚のない声で言った。
「われわれは非公式の存在です。それだけ申し上げればご理解頂けると思いますが」
No’5の生気のない瞳が、鈍くガラス色に光る。その静かな圧力に押され、 博士はついに壁にぶつかった。
「まて!!私を殺せば、お前がどこの誰だか知るものはいなくなるんだぞ!!」
博士の絶叫にわずかにNo’5は目を細めた。そして、いつになく激しく言った。
「それを奪ったのは、他ならぬ貴方ではないですか?」
博士の頭上を、光の筋が通過する。力なくしゃがみこむ博士に、No’5は冷たく 言葉を投げかけた。
「すでにMカンパニーは兵器製造の事実を認め、惑連による調査に同意しました。 ここにも捜査が及ぶでしょう。もし良心が少しでも残っているのなら、 すべての事実を述べて下さい」
博士の目の前に、ブラスターが放り投げられた。がっくりと肩を落とす博士に対し 興味を失ったのか、No’5はきびすを返した。
完全にその姿が見えなくなった後、室内にはいつまでも鳴咽が響いていた…。

テラ行きの船内は閑散としていて、幸いなことに No’5を気にするような乗客の姿もない。券に記された席に就くと、No’5はブラインドを下ろした。
船内に、出発時間を告げるアナウンスが響く。公の記録に残らない仕事に、何ら意味は見出せるのだろうか。 答えのでないいつもの問いとともに彼の乗る船はゆっくりとマルスを後にした。
テラでは、『長い休暇』が待っている。それが終われば、 今回のすべての記憶が、彼から失われる。
消え行く記憶を懐かしむように、No’5は静かに目を閉じ、 つかの間の眠りに就いた。

この日、Mカンパニーの惑連法違反と、セオドア=プライス社長の引責辞任 及び逮捕拘束が、全世界へと報道された。

 

 

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