ACT2

 

緩やかな衝撃とともに、彼は目覚めた。テラからマルスへのほんのわずかな時間で 彼はどうやら眠ってしまっていたらしい。
飽きるほど眠っているはずなのに、と、普通の人間なら苦笑いの一つでもするところだろうか、と 彼は内心思った。
宇宙港に降り立った彼を、手を振って出迎えるものがいた。
「アンドル=ブラウン特務少佐殿?」
人好きする笑顔を浮かべながら、たずねる男に対し、 彼は無表情にうなずいて答えた。
「お忘れですか、少佐殿。以前フォボスでごいっしょした…」
そこまで言いかけて、男は慌てて口をつぐんだ。それをまったく意に介さず、彼はようやく口を開いた。
「前置きはともかく、概要を聞こう。デイヴィット=ロー大尉、いや」
一度言葉を切ってから、アンドルと呼ばれた男はゆっくりとかつ聞こえないくらいの 大きさの声で言った。 「No'21」
それを聞き、男は背筋を伸ばした。先ほどの笑顔はすっかり消えた。
「名前は、所詮隠れみのに過ぎん。見るものが見れば、われわれの正体など すぐに分かる。偽るだけむなしいだけだ。」
そしてまた小声で、自分のことも『名前』で呼ぶ必要はないと 彼は付け加えた。それを聞き出迎えの『男』にあの笑顔が戻った。
「失礼。自分はまた、気に障ることでも言ったのかと心配に思っていたところです。申し訳ありません、No'5」
「『システム』の違いは仕方がないことだ。私はすでにスクラップ直前の旧型であることに変わりはないのだからな」
まったく抑揚のないしゃべり型も、そのゆえんであろうか。 一瞬思いを巡らせかけたNo’21の思考を、平板な声が遮った。
「時間がない。詳しい話は、いく途中で聞こう」
「アイ・サー」
『二人』の姿は、止めてあった車の中へ消えた。  

まだ充分緑化の進んでいない赤茶けた大地を 一台の車が進んでいる。運転席に座る男は、時折助手席に座る同乗者になにやら声をかけている。
…これだけ見ていれば、彼らが『人間』ではないと思うものはまずいないのではないだろうか。
「生きて動いてはいる。だが私は、厳密には生きていない」
そう言うと助手席のNo’5は車窓から外の風景に目をやった。
「奇妙なものだな。それがこんなことをしているのだから」
運転をしているNo’21はわずかに隣を見かけたが すぐに前方に視線を戻した。相変わらずNo’5の言葉は 辛辣だなと内心思っていた。
「正直なところ、貴官と以前行動作戦を取ったといわれても、しっくりこない」
「それは、例のシステムの違いってやつですか」前方に視線を固定したままのNo21’に対し、No’5は 無言で肯いてから言葉を継いだ。
「10番台以降のように行動をメモリーで登録するのと違って、私は起動のたびにデータで登録しているからな。データはあくまでも 記録であって、記憶ではない」
そして、おもむろにその手を前方へとかかげた。
「下手をすると、この手も腐り出すかもしれない。まだ十分に修復がなって いないから、申し訳ないが、短期決戦となるな」
「かまいませんよ。早く終わるぶんには歓迎します。ところで M.カンパニーの内部事情と今回の件についてなんですが」
右手でハンドルを握りつつ、No’21は手元のファイルを引き寄せた。

 

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