act4

 

マルス最大級のホテル、ということもあり、内部の調度品は見事なものだった。だがさすがにMカンパニー関連の資本である。一筋縄では行かない。
ロビーや廊下のそこかしこに『防犯』カメラが設置され、 ベルボーイの中にも人相が悪いものが何人か混じっている。 No’5は滞在する部屋の隅々に視線を巡らせた。ダミーを含めて 数箇所に盗聴機らしきものが仕掛けられているのが理解できた。
文句の一つでも言いたいところか、と言葉には出さずに、No’5は改めて先刻No’21から受け取ったファイルに目を通した。
スパイの嫌疑をかけられて拘束されているのは生産管理部門勤務の女性。名はクレア=T=デニー、年は27歳となっている。 勤務態度は真面目で、人望も申し分ない。その彼女が拘禁される 原因となったのは、一枚の写真である。
たまたま研修先の工場で撮った記念写真の背景に、企業秘密に関わる ものが写っていた、とのことである。 彼女はディスクの提出を拒否したため、スパイとされたというのだが なぜこれだけのことで、と思うのは当然のことである。
「電卓からミサイルまで、売れれば造る」と言われているMカンパニーの疑惑を裏付ける『何か』が写っていたのかもしれない。 すべては当事者に会ってからである。
そして、ふとNo’5は容疑をかけられている女性の写真に目を落とした。少々きつい印象を受けるが端正な顔立ちの女性が、こちらを見つめている。どこかであったことが有る、思い出そうとしたとき、ノックの音が部屋に響いた。
「ブラウン捜査官、そろそろ面会のために出発したいのですが、よろしいですか?」
扉の向こうからNo’21の声が聞こえた。おそらく彼も盗聴機の存在に 気がついているのだろう。資料をまとめ、IDカードを確認してから、No’5否、アンドル=ブラウン捜査官は 『敵地』へと出撃した。

「先ほどのあれ、本部に送っておきました。データは2,3日後に 自分に直接くることになります」
わずかに車を離れた時間の細工の可能性を気にしてか、デイヴィット=ローこと No’21は妙に遠回しな言い方をした。それが空港周辺の緑化の後遅れをさすと理解し アンドル=ブラウンことNo’5は無言で頷いた。
「Mカンパニー本部までは、10分ほどです。で、例の社長の件ですが」
バックミラーで例の不審車が追ってきているのを確認してから、デイヴィットは 意味ありげな表情でつぶやいた。
「食えないやつですよ。彼は」
「食えるようでは、ここまでの巨大企業にはできないだろう」
「確かにそうですが…」
No’5のいうとおり、Mカンパニーは現社長T.プライスが就任してから異常ともいえる ほどの成長を果たしていた。このあたりも、黒いうわさのゆえんであった。

事前に約束をしていた為か、惑星連合の肩書きのおかげか、両者はほとんど待たされる ことなく若きMカンパニーの社長に会うことが出来た。
扉が開いて現れた40代半ばと見られる社長は、活気を漲らせた笑顔を浮かべて テラからの客人に歩み寄った。
「遠いところをわざわざご苦労様です。私がセオドア=プライスです」
「お忙しいところ、ご協力感謝します。惑連テラ本部恒星間捜査担当、アンドル=ブラウン です」
実在はするが、実際には異なる所属で、No'5は事務的に返答した。以前に面識がある No'21とは挨拶もそこそこに、プライス社長はおもむろに本題に入った。
「さて、予備調査後に上の方が来たところを見ると、まだ我が社の疑惑は晴れてはいない 様ですねえ」
「まあ、普通社内調査でも拘禁まではやりすぎだと思うんですが」
何気ないNo'21の言葉に、若社長は過剰なまでに反応した。
「それは大袈裟ですよ。たまたま長時間の話し合いになったので、部屋を用意して 泊まってもらっただけの事を、あの新聞社ときたら…」
「我々は公平に物事を理解したいのです」
両者のやり取りを、No'5の平板な声が遮った。
「被疑者にあわせていただけますね」
静かな圧力に、社長は首を縦に振らざるを得なかった。

 

 

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