act7

 

Mカンパニー及び恒星間通信社への直接訪問から、捜査はしばらく 行き詰まった。再度調査を依頼しても、さまざまな理由をつけられて 許可されることはなかった。加えてMカンパニーは、マルス惑連を通してくれなければ 困る、と言い出したのである。
「やはり、やましい所があるんでしょうねえ。何もないなら会せてくれても 良さそうなものなのに」
行儀悪くテーブルの上に足を投げ出してNo’21はぼやいている。それを聞いているのか 定かではないが、No’5はいつもの無表情で、何やら左手を気にしていた。
「どうしました?やばいですか、そろそろ」
それに気付き、No’21は慌てて座り直した。少し見ただけでは分からないが、 No'5の左手には人造皮膚の手袋がはめられている。しばらくNo'5は手を開いたり閉じたり していたが、どうもしっくり来ないようだった。
「一度テラに戻ります?」
そう言ってしまってからNo'21は周囲を見回した。ロビーは幸い混雑しており、彼等を 気にするものはいそうもなかった。No'21の問いには答えず、No'5はゆっくりと 立ち上がった。
「少し出てくる」
「お一人で、ですか?」
軽くうなずくと、No'5は何か言いたげなNo'21を尻目に、足早にロビーを抜け、 ホテルを後にした。一瞬No'21は止めようかとも思ったが、自分よりはるかに実戦を経験 しているのだから、と思い直し、再び行儀悪くテーブルに足を投げ出した。

街のショーウィンドゥには、どこも似通った服が並んでいる。それを覗き込む 人々も、ちょっとやそっとでは区別がつかないほど画一化されている。 これがMカンパニーの行った『情報管理』の結果である。作られた流行に乗る人々の活気は No'5の目には空虚であった。
「やあ、先日はどうも」
背後から突然声をかけられて、No'5はゆっくりと振り向いた。いつのまにかそこには 恒星間通信社の支部長、カスパー=クレオの姿があった。
「こちらこそ。お忙しい所を失礼しました」
「いえいえ…ついでですので、少しどうです?」
裏表のない支部長の笑みに逆らえず、No'5はその誘いに乗ることになった。 賑やかな表通りを一歩入ったところにある、落ち着いた店に、支部長は知り合ったばかりの 惑連捜査官を案内した。そして席につくなり、こういったところは、Mカンパニーの資本が 入っていないから、と言い、例のように笑った。
「残念ながら、お話できるほど進展してはいません。申し訳ないのですが」
そんな支部長の本心を見透かすように、アンドル=ブラウン氏は何気なく切り出した。決まり 悪そうに咳払いを一つした支部長だったが、ふと意外そうな表情を見せた。
「…何か?」
「いや、あなたの様な穏やかそうな人でも、前線経験があるのかと…あ、気に障ったら申し訳ない」
その言葉の根拠が、左手の人造皮膚であることを理解し、さも自然だ、と言わんばかりに アンドルはその手を目前へとかざした。
「前回がフォボスだったので。ああいった状況のほうが、むしろ調査対象は多いものです。 それにしても、よく気がつかれましたね」
珍しく饒舌なアンドルに、少々驚きつつ、支部長は煙草を出しながら答えた。
「以前従軍記者のようなことをしていたものでね。あんなのしょっちゅう見てましたよ」
差し出された煙草を固辞しながら、アンドルは更に何気ない口調で尋ねた。
「失礼ですが、動乱好きで?」
「いや、本当のことを知りたいだけです。知った以上は埋もれさせるわけに 行かないでしょう」
「それで惑連の機密にも通じておられるわけですか?」
一瞬、支部長の動きが止まった。御冗談を、と笑おうにも、目の前の捜査官の目には、 ユーモアのかけらすら見当たらない。咳払いをしてから、支部長は乱暴に煙草を消した。
「最早、特務は公然の秘密ですよ。尾鰭がついて、そのメンバーは一人で数千人分の 兵力になるなんて、本気で考えている人もいるくらいで」
「それがプライス社長ですか?」
支部長は肯定も否定もしなかった。そしてふと思い出したように付け加えた。
「数年前、マルス惑連から出向と言う形でMカンパニーに、テルミン博士と言うのが 来たようですが」
アンドルの表情が、ごくわずかに変化した。それを確認してから、支部長は憎らしげに続けた。
「彼が、クレアの存在を思い出さなければ、こんな事態にはならなかったのに…」
「どういうことですか」
支部長が答えようとしたとき、けたたましいサイレンの音が、表通りから響いてきた。 その台数は尋常ではない。異常を感じて、両者は立ち上がった。
「何だ?火事にしては派手だな」
「煙は見えますが…あれは火事ではないですね…爆破か?」
アンドルの冷静な声に、支部長は窓からその方向を見やった。そして、蒼白になった。
「…支部が…やられた…!」

 

 

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