act8

 

ビルの周辺にはすでに野次馬が集まり、もうもうと煙を上げ続けるビルを、 彼らは遠巻きにして眺めている。いや、それはもうビルではなく、瓦礫の山 といった状態であった。
その瓦礫の山の中から、次々と怪我人や遺体が運び出されている。煙と 塵と、血のにおいが交じり合った、市街戦独特の臭気があたりには漂っている。
「…どうでしたか?」
黒山の人だかりを向けてきたカスパー=クレオ支部長に、アンドル=ブラウンは いつもの落ち着いた声で尋ねた。
「かなりみんな出払ってたのと、上の階だったのが幸いしたよ。重傷者は出たが 命に別状はない」
言葉とは裏腹に、支部長からは静かな怒りが滲み出ていた。それを察してか、 アンドルは静かに言った。
「…対戦艦用破壊弾ですね。空気中だったのであの程度ですみましたが」
通常、宇宙船内は空気中より酸素濃度は高くされている.そのため、戦艦用の爆弾の類は 空気中ではそれほど破壊力はない。再び破壊されたビルを見やって、支部長は絞り出すように つぶやいた。
「…Mカンパニーか…警告というわけだな」
「いえ、惑連でしょう。おそらく」
断定するアンドルの声は冷たく、突き放す様でもあった。支部長が何やら言い返そうとした時 甲高い電子音が響いた。失礼、といいながら、アンドルは携帯電話を取り出した。
「私だ」
『少佐殿?今、恒星間通信社が…』
上ずったNo’21の声が受話器から聞こえてくる。それに対しNo'5は落ち着き払って 答えた。
「今、現場にいる」
『支部長はどちらに?!』
「一緒だ」
電話の向こうからほっとしたような吐息が聞こえてきた。話が見えない支部長は冷静過ぎる 捜査官をいぶかしげにみつめている。
『今そちらへ向かっています。…あちらさんついにキレました。あそこも限界です』
「わかった」
彼が何を言わんとしているのかを理解して、No'5は電話を切った。携帯をしまうと、No'5 は静かな口調で支部長に伝えた。
「マルス惑連のねらいは貴方であるようです。われわれには貴方も守る義務がある。 ご同行願えますか?」
「しかし…!貴方も惑連の人でしょう?それがなぜ…」
声を荒げる支部長をNo'5は手で制した。その手をそのまま目にやり、何やら外す仕種をする。再び差し出された手の上には、コンタクトレンズが乗っていた。
「…貴方は」
改めて目の前の『人物』を見て、支部長は絶句した。人ではありえない、ガラスのように 対象を射抜く双眸がそこにあった。

これ以後、恒星間通信社支部長と、二人の惑連捜査官は、ぱったりと姿を消した。

 

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