Act9

 

Mカンパニー本社ビル最上階、1フロアをすべてとった社長室で、Mカンパニー社長 T.プライスは、不機嫌そうに報告を聞いている。陰湿な秘書の声に、社長はいらただしげに 反応した。
「…エル=ロッホ支部、4.7パーセントの業績低下です。対フォボス輸出の低下が大きな…」
「経営努力不足だ。本社から調査員を派遣して、てこ入れを図る」「分かりました。次にダイモスの支店ですが」
乾いた秘書の声を、インターフォンの呼び出し音が遮った。受話器を取らずに音を止めると、 社長は手を振って秘書を下がらせた。一礼して退出する秘書と入れ違いに、初老の気難しげな 男性が、大股で入ってきた。
「これはテルミン博士、お元気そうで何よりです」
その姿を認めて、社長は立ち上がり、嫌味と皮肉をたっぷり込めて言った。こちらも不機嫌さを隠そうともせず、テルミン博士は怒鳴るように言い返した。
「元気なものか!全く君の部下も惑連も無能なくせに大口をたたいて困る」
そしてどのみち捜査官二人も,恒星間通信社の支部長も見つかっていないんだろう、と 吐き捨てた。
「時間の問題です。どの道マルスは私の手の内ですから。それより彼女はどうしました? 一応『有能』な我が社の社員なんでね。あまり長引くと出張費も馬鹿になりませんよ」
嫌味と皮肉に加え、悪意をも込めて、プライス社長は目の前の『かつての惑連技術部の ホープ』に言い放った。しかし博士には、まったく堪えた様子はない。かえって自分の 研究に触れられたものと勘違いしたらしい。一転して饒舌に話し始めた。
「結果は順調だった。20年以上経っても機能自体は落ちていない。これで後は、テラに 残してきた片割れを調べられれば完璧なのだがね」
そう語るテルミン博士の瞳には、狂気の光が見えた。いかに天才の誉れが高く、自らの 『事業』に有益な人物であったとしても、手を組んだのは誤りだったのでは…と、一瞬 若社長の心中に弱気の虫が頭をもたげた。
特務を形成するDollの主要開発メンバーでありながら、惑連本部から追われたニコライ=テルミン博士は、プライス社長に とって、渡りに船の存在だった。『黒い商売』で飛躍的に成長したMカンパニーにとって、 新たな『商品』の開発は必要不可欠であった。
同様にテラ本部というバックボーンを失ったテルミン博士にとって、Mカンパニーのように 『カネと設備』はなくてはならない存在であった。
このような両者の思惑が合致して、手は組まれたわけであったが、ここの所恒星間通信社及び 惑連捜査官の来訪など、邪魔が入り始めている。時間がない、と社長が焦っていたのも 事実であった。
そして、ことを終えた後は一刻も早く、この狂気の博士と手を切りたかった。さらに嫌味の一つでも言ってやろうと若社長が口を開きかけたとき、緊急通信用のモニターに 青ざめた顔のオペレーターの顔が映し出された。
「社長…マルス惑連が、占拠されました…!」

 

 

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