act12

ハイジャック犯とのにらみ合いは、事件発生後2日経った今でも何ら好転する気配はない。空港の管制室に詰めている警察や軍の要人らは、いずれも疲労の色は隠せなかった。
膠着状態に陥っていた事態が急展開を始めたのは、昼過ぎのことであった。『人道的観点』から、病人、妊婦、そして子どもの合わせて10数名が前触れもなく解放されたのである。すると当局はこれを利用しようと考えた。すぐに入院加療が必要な1名を除いて、解放された人質は全員、管制室に集められた。機内がどのような状況なのか聞き出そうという寸法である。
だが、現実はそう旨く運ばなかった。厳つい顔をした男達に囲まれて、幼い子ども達は怯え、泣き叫ぶばかりである。お偉いさん達がほとほと困り果て、頭を抱えていた時、一人の少年が窓の方に歩み寄った。そして、立ち往生している飛行機を指し、言った。
「銃を持ったおじさんはあそことそこに一人ずついたよ。みんなはあの辺に集まってる」
大人達は慌てて少年が指さした先を見つめた。どうやら操縦室に一名と、客室に一名、という布陣らしい。大人達は何気ない少年の言葉に色めき立った。
「で?その銃を持ったおじさん達は、銃以外に何か持っていたかい?爆弾とか、ナイフとか…?」
「ナイフは持ってたよ。爆弾も鞄の中に入ってるって言ってた。でも、見せてくれなかったから本当かどうかは分からないけど」
少年は大人顔負けの冷静さで状況を観察していた。その話によると、心配されていた引火性気体の機内散布は行われていないようだった。暫し話し合いが行われた後、軍服姿の一人が立ち上がった。
「大尉、出番だ」
その声に応じて、先刻から大人達の輪から離れたところに座っていた一人の男が、静かに立ち上がった。音もなく近寄ってくるその男に、少年は部屋に入ったときから妙な違和感を感じていた。だが、男を間近にしてその原因を理解した少年は、少年は息をのんだ。
生気のない硝子色の瞳が、少年を正面から捕らえた。そのあまりの異様さに少年は目を疑った。存在自体が不自然な、そう、まるで人形が動いているような…そこまで考えが及んだとき、男の口が開いた。
「引火性の気体をばらまいたら、自分らの方も発砲できなくなる。連中もそこまで馬鹿では無かったようだ」
「御託は良い。お前が腕前を見せつけてくれりゃ、全てが終わる。早くしろ」
男の上官らしい軍人の言葉には、心なしか皮肉と嫌みが必要以上に加味されていたように少年にも感じられた。だがもっと不思議経ったのは、期待を一身に背負っているはずの男に向けられる大人達の視線が、等しく冷ややかであり、中には恐怖や嫌悪すらも含まれていることである。
当の本人はそれらを気にする様子もなく、手慣れた動作で何やら組み上げている。どうやらレーザーライフルの類のものであるらしかった。かなりの重量のあるそれを軽々と担ぎ上げると、男は窓際へ歩み寄った。
「おい…大丈夫なのか?そんなに堂々と…」
「これだけ離れていれば肉眼でこちらは確認できない。普通の『ヒト』ならば」
そう言い捨てると、男はライフルを構えた。その口元には薄笑いさえ浮かべている。その異質な神秘さに少年は釘付けになった。内心嫌悪を感じながらも、大人達も少年と同じく男から目が離せずにいる。
男はスコープを通して狙いを定めた。硝子色の目が僅かに細められる。引き金が引かれるまで、時間はかからなかった。ためらいや迷いと言った『感情』は、全くと言ってよいほど感じられなかった。一本目の軌跡が消えぬうちに男はライフルを構え直し、再び引き金を引いた。
ライフルをおろした男が僅かに頷くのを見た軍人が慌てて出動の命令を下す。二日間に渡ったにらみ合いの結末にしてはあまりにあっけないものであった…。

 

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