act15

 

先に非常回線を開いたのはNo'17の方だった。
呼び出しに応じて、それまで灰色だったディスプレイに映し出された彼らの『生みの親』であるジャック=ハモンドは、心なしかいつもより疲れているようだったが、不快な様子は見せなかった。だが、それまでの経緯をNo'17がかいつまんで報告すると、その表情はやや曇った。
「中に小龍がいるのは確かなんだな?…とは言っても、確証は…」
話を振られてNo'21は勢い良く首を左右に振る。やはりそうか、と言うように、一つ頷くと、ジャックは腕を組み黙り込む。暫し、画面から目をそらし、何か呟いているようではあったが、こちらからは内容までは分からない。
「取りあえず、ルナの駐留軍は押さえました。第一級臨戦態勢を取って貰ってます。それは良いとして、I.B.の…『ドライ』の考えが読み切れないんです」
「ドライ…ドライか…」
二、三度、ジャックこと、Jの口から顔すら明らかになっていない、その存在すら疑問視されている敵の首領の名前が漏れる。彼は人差し指で米噛みのあたりを叩いていたが、不意にそれが止まった。
「ドライ…サード…、いや、まさか…だが…」
いつになく厳しい表情を見せるJに、ルナの両者は顔を見合わせる。その戸惑いを感じたのか、或いは決心が付いたのか、Jはようやく正面に向き直り、重い口を開いた。
「…キャスが乗った船をI.B.がやったのは確実なんだな?」
数秒の間をおいて、No'17は頷く。画面の向こうにいる彼らの親が、一体何を考えているのか、そしてどのような結論に達したのか、子ども達には想像も付かないでいる。
画面を挟んで、両者の間に重く長い沈黙が流れる。その沈黙に耐えきれず、No'21が口を開きかけたとき、Jの口から、重い独白が流れた。
「…まず、脳死宣告を公にしなかった時点で臓器移植法違反、次に認可されていない脳手術を実行した時点で死体損壊罪。いや、あのとき脳死が確定していなけりゃ、傷害罪、下手すりゃ殺人未遂だ。しかも、一度や二度のことじゃない。同じことをしてもバックの有無で大きな違いだ」
更に続きそうなジャックの独白は、突然中断した。画面を通して注がれる視線に気が付いたのだ。一つ咳払いをしてから、改めてJは両者の視線を受け止めた。
「すまん。年寄りの戯言だ。忘れてくれ。…この歳になると、厭なことばかり思い出して困るよ」
言葉の後半は彼なりのユーモアだったようだが、残念ながら不発に終わった。もっとも彼の『子ども達』に、齢を重ねると言う感覚と、それに伴う愚痴を理解できるかどうかは謎である。決まり悪そうに苦笑を浮かべてから、Jは表情を引き締めた。
「…J…、ひょっとして、貴方には事件の真相が見えているんじゃ…」
ようやく発言の機会を掴んだNo'21の何気ない言葉が、普段は穏和なJの表情をより厳しい物にした。その険しい表情のまま、ジャックは果たして頷いた。
「見えている、と言うよりは、推測にすぎん。だが、悪趣味な想像ほど最悪の現実に近いと言うこともある」
自分に言い聞かせるためか、ジャックは低く呟いた。
「まだ若い頃さ。お前さん達の原型を研究していた頃の話だ。俺らのラボに瀕死の軍人がかつぎ込まれてきた。頭部にでかい傷を負っていて、我々は脳死状態と結論付けた」
そこでジャックは一度言葉を切った。苦い思い出を自分の中でかみ砕いて言葉にするのに苦慮しているようでもあった。
「上からの命令は、彼を助けろということだった。そのままでは彼の死は明らかだ。命令か人としての良心か、我々は二者択一を迫られた。そして奴は…ためらいもなく決断を下した」
固唾をのんで次の言葉を待つルナの両者に、ジャックは予想に違わぬ言葉を口にした。
「実験中の…成功率はコンマ以下とはじき出されたA.I.の埋め込み手術を、実行したのさ…」

 

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