act16

「…そして被験者となった患者は生き返ったわ。でもそれは単純に生き返っただけ。起きあがった患者には、生前の記憶は残されていなかった」
「それが『サード』なんですか?」
黄小龍の問いかけに、キャスリン=アダムス博士は力無く頷いた。
知りたくない現実から目を背けるように、小龍は窓の外に視線を転じた。ちょうど先刻出ていったシャトルが戻ってくるところだった。
「サード…そうね、正式にはNo’3と呼ばれていたわね。射撃や白兵戦の腕を買われてしばらく惑連にいたらしいけど…」
事件捜査中に消息不明。除籍時に二階級特進で大佐へ。それがNo'18の持つ、No’3の情報全てだった。その中には先程”D”から聞かされたハイジャックの記録もある。Dの話は絵空事ではなかった。"Doll"No’3との出会いが、一人の少年の人生を、大きく狂わせてしまったのだ。
「さっきのシャトルに『サード』がいるの。突貫的なA.I.手術が不具合を起こしていると、彼が助けを求めてきたのがテラに建つ直前。悪戯だと思って無視していたんだけど…今更ながら、本当だったのね」
No'18から逃げ出すように、博士は話を打ち切り扉へと向かった。
弁解はしない。その代わり慰めも受けない。博士の後ろ姿は、まるでそう言っているようだった。
そして再び、室内にはNo'18だけが残された。
頭の中で足音が反響する。窓に写る自分の姿が目前に迫る。そして…。

侵入されたことに気が付いたらしい。どうやら奴らも馬鹿ではないようだ。
この状況下でもう一度ホストに侵入を試みるのは難しい。
そう言えば先刻、『ドライ』が来たと、博士は言っていた。
これまでの奴らの動きからして、相手の人数はそう多くはないらしい。その少ない奴らが『ドライ』の警護にあたれば、こちらの監視は手薄になる。動くなら今だ。
『彼』は扉に向かって歩み寄る。閉ざされた扉に強引に手をかける。一瞬抵抗した後、扉はゆっくりと開いた。
『彼』の顔に笑みが浮かぶ。いつもより明かりが落とされた廊下に、彼は消えた。

宵の帳が降りた中に、水銀ドームは周囲からライトを浴びて異様な圧迫感を見る者に与えていることだろう。だが、そこで威圧感を覚えた時点で、既に設計者の術中にはまっているという事実に、気づく者はどれだけいるだろうか。
難攻不落。そう広く宣伝されてきた水銀ドーム。あらゆる物理的攻撃を無力化するというこの防御システムを、だが実際に攻撃した者はいるのだろうか。
全ては設計者のしかけた罠だ。そうつぶやき、『彼』は低く笑った。
ここまで来る途中、彼は二桁のカメラを動作する以前に破壊してきている。セキュリティシステムの管轄外にある非常階段を下へ、下へと降りていく。
そしてついに階段は尽きた。暗く、だだっ広い空間が、そこには広がっていた。
彼は迷うことなくその中へ足を踏み入れる。柱の一点に手を触れると、そこから端末が姿を現した。
唇の端に僅かに笑みを浮かべると、彼はそれに向き直った。

 

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