act18

静まり返った室内に、着信を知らせる電子音が響く。
定時外の突然のことに、「I.B.対策本部」の両者は怪訝な表情で顔を見合わせ、取りあえずそれを拾おうとした。
「…ルナ惑連の非常回線からです…!この通常端末では…」
「取りあえず拾って!復元は私が何とかするから!」
緊張が走る室内に、No'17の鋭い声が飛ぶ。慌ててNo'21がその指示に従うと、もう一つ画面が立ち上がり、意味不明の電文が表示され始めた。
「どうした?何かまずいことにでもなったのか?」
ルナでの異変を感じ、画面の向こうでジャックが身を乗り出す。端末を操作しながら返答したのはNo'17の方だった。
「ルナ惑連から非常通信が入りました。復元解析がもうすぐ終わるので、直通回線でそちらにも転送します」
程なくして、例の通信文を受け取ったジャックは、ざっと目を通すなり深々と溜め息をつく。
「おい…こりゃあ…」
苦笑いになりきらない表情を浮かべたジャックは、先ほどよりも心なしか疲労の色を濃くしたようだった。
「…奴がテラに戻ってきたときが思いやられるよ。こりゃあ、また嫌われるなあ…」
「今はそんなことを行っている場合じゃありません!」
ジャックの愚痴をぴしゃりと跳ね返すと、No'17は真剣な表情で復元された電文を目で追う。
「どうやら、大尉殿は無事なようですね」
「でも、あまり無事とは言い切れないみたいよ」
緻密なまでに状況を報告する文章は、いかにもNo'18の物らしい。だが、決定的な、何か根本的なところが、いつものNo'18、黄小龍とは異なっていた。
「…今後、各地に配備されている水銀ドームの安全性の再確認を上申する必要があるな。…地下か…狐につままれた気分だよ」
「そうですね…あの、どうします?」
遠慮がちに尋ねるNo'21に、No'17は鋭い視線を突き刺した。一瞬たじろぐNo'21に、No'17は矢継ぎ早に指示を下した。
「装甲隊はそのまま待機。出来る限り彼らの視線を引きつけさせて。動ける機動隊はどれくらい出てるの?」
すぐさまNo'17は軍及び警察の特殊部隊の配備状況を確認する。弾き出された結果を、彼は報告した。
「第二、第四が現在配置に付いています。数はそれぞれ500」
その言葉に呼応するように、第三の画面が立ち上がり、配備図が映し出された。No'17はそれをしばらく眺めていたが、やがてある一点を指し示した。
「ここなら内部からは死角になるわね…両方の司令官に繋いで」
いつになくNo'17の目に好戦的な光が宿っている。空恐ろしさを感じながらNo'21は次の命令を待った。
「…G35排水溝経由で突入。取りあえず動けるだけで良いか。時間は追って指示する」
一瞬の間を置いてから、我に返ったようにNo'21はルナ宇宙軍臨時司令部に回線を繋ぐ。サブ画面ではジャックが頭を抱えていた。それらを一通り眺めてから、No'21は再び先刻の非常通信に視線を移した。
――なお、水銀ドームは上空及び側面からの攻撃に対しては完璧な防御能力を誇るが、それはあくまでも上空及び側面…地上からのあらゆる物理的攻撃に限られる。籠城が長期化したときのための補給路及び脱出路が確保されており、そのゲートは小官が開放した…――
「地下排水溝と、地下街、第三層居住地区を繋ぐ、網目状の一大迷路か…とんでも無い物を造ったもんですね」
「…テラがルナを信用していないか、その逆のどちらかね。行くわよ」
画面の向こうのジャックに一礼すると、No'17は足早に部屋を出ていった。その後ろ姿とジャックとを暫し見比べた後、No'21も敬礼を残し、No'17を追った。
スクリーンは灰色に戻り、室内には不気味な静けさだけが残された。

 

 

戻る
次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送