act4
「まあ、百歩譲ってその予告状が本物だったとしよう。だがね、この事件を起こすこ
とがIBに何かメリットをもたらすものなのか…」
半ば苛立ったような声が上座から上がる。見ると先刻から一言も発しなかった捜査部室長
であった。
初老と言うにはまだ早いものの、いかにも名誉職と言った風体の捜査部室長が若い首席捜査官を快く思っていな
いことを、デイヴィットはこの一言で確信した。
両者の確執はどうやら今日に始まったものではないらしく、言われた側の黄大尉は、室長を軽く一瞥すると、面白くなさそうに視線をスクリーンへと映した。
議場の面々にもこの一見を全く気にする様子は無かった。寧ろ両者から等距離を保つことによって、自らの保身を図っている用でもあった
。
次第に、会場全体にだれた空気が流れはじめる。皆の集中力もそろそろ限界と判断したデ
イヴィットは僅かに姿勢を正した。そろそろ頃合いである。退屈な会議場から逃れるべく
、彼は爆弾投下を決意した。
「諮問会議参加者は、当局が反対意見を持つアダムス博士を秘密理に暗殺したのではない
かとの考えが主流になりつつあります。このまま事実関係を有耶無耶にしていれば、惑連
の存続にかかわる問題になりかねません…」
ようやく重苦しいだけで無意味な会議室から開放され、デイヴィットは大きく伸びを
した。人気のないことを確認しての行動であったが、だが不意に背後から彼を呼び止める
声があった。
「好きなだけかき回して、しかもアゴ足付きとはいい身分だな。No.21
」
冷気さえも感じられる声に、恐る恐る、と言うようにNo.21は振り向いた。姿を現した
のは、先程まで同じく会議に出席していた黄小龍大尉であった。
最初に会った時とは全く異なり、一片の好意すらない視線を正面から受けて、No.21は無理矢理笑顔を返そうとしたが、不発に終わった。
「…いきなり妙なところから出てこないで下さいよ、大尉。趣味を疑われますよ」
「そんな物好きな推測をする奴はここにはいないさ。まあいい、ここじゃ安心して話せや
しない」
無愛想に言い放つと、無言で着いてくるよう促し、黄小龍大尉は先に立って歩きはじめた
。おそらくこれが彼本来の姿なのだろう。それにしても…。
一瞬、その姿を見送ってから気付かれないよう小さく溜め息を着くと、No.21は慌て
てその後を追った。
「待ってくださいよ黄大尉。こっちはまだ来たばっかりで不慣れなんですよ!
」
「まどろっこしいから『名前』で呼ばなくても構わん!
いいから着いてこい」
振り向きもしない『先輩』の背を見ながら、その姿だけではなく性格までも、『あの人』にやはり似ているとNo.21は思わざるを得な
かった。
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