act5

 

「で?本当のところ、当局はどう思っているんだ?」
殺風景な個人執務室へ入るや否や、黄小龍大尉は間髪を入れずに切り出した。だが、No’21が答えるよりも早く、デスクに腰をかけた先客が妖艶な笑みを浮かべながら口を挟む。
「まったく、少しくらいは社交辞令を大切にしたらどう?そんなんじゃ出世しないわよ、No'18」
出鼻をくじかれた黄大尉ことNo'18を後目に楊香はさらに笑って見せた。
「こっちは一つ事件を片付けてきたばかりだって言うのに。ねえ?」
急に話を振られて、勢いよく首を横に振り否定してみせるNo’21に対し、No'18は相変わらず不機嫌なままだった。
「いい加減にしろよNo'17。どのみち俺らは使い捨ての道具に過ぎないんだ。社交辞令なんかに気を使うだけ無駄だろ」
「あら、それ以前の問題じゃないの?円満な人間関係なくして任務の完遂はできないと思うけど」
まったく動じる様子のないNo'17こと楊香に対する反論を断念すると、No'18は改めてNo'21に向き直った。そして無言のまま、先刻の質問に答えるよう促した。両者のやりとりを前にして、必死に笑いをこらえていたNo'21は慌てて体勢を立て直した。
「あの犯行声明が出る前から、上の方はIBを疑っているフシはありましたから。…尤も、『あの事件』もIB絡みと思ってたようなんで、何とも言えませんが」
「実際はN.テルミン博士をたきつけた一企業の単独犯、という訳か。しかし、今回IBを疑う根拠は?室長の真似じゃないが、IBに何かメリットでもあるのか?」
分からない、というようにNo'18はNo'17を省みる。けれども、No'17は同じく首を横に振るだけだった。
「キャスリン=アダムス博士は研究面では今の主流からは外れている筈よね。仮にIBが何かたくらんでいるなら、もっと若手の研究者を抱き込んだ方がリスクはないと思うけど」
「これはJから聞いた話なんですが」
何気なくNo'21が口にした『生みの親』の名に、No'18は明らかに嫌悪の表情を見せたが、辛うじてそれを押さえ込むと、黙ったまま続きを促した。
「アダムス博士はD計画発足当時のメンバーだったそうです。方針の不一致で辞められたそうですが」
「でも…そんなデータ、私たちには回ってきてないわよ。第一、それをIBが掴んでたとして、どうするつもりなのかしら」
当然の疑問を口にするNo'17に対して、No'18はゆっくりと頭を振った。
「確かに、アダムス博士が告発するようなことになったら、惑連の弱体化や崩壊を招くのは容易だろうな。法的にも人道的にも許されない実験をしてるんだから」
一瞬皮肉な笑みを浮かべた後、再び鹿爪らしい表情を作ってからNo'18は静かに呟いた。
「だが…これだけでは事件の真犯人がIBだという決定的な根拠にはならないな」
事態は再び、振り出しに戻ってしまったようである。

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