act1 meet with ...

道はひたすら真っ直ぐ目的地へ向けてのびている。
見渡す限りの荒れ野原を真っ直ぐと貫いている。
聞くところに寄るとこの道路は『鉄道』や『飛行機』などと言った文明の利器が移動の主流になった頃から、通る人も疎らになったらしい。
もっとも文明の利器がヒトの手から放れて久しい今も、この一直線のこの道を通る者は殆どない。
いや、殆どの人間が自らの『足』以外の移動手段を持たない現在、何も危険を冒してまでもこの道を通って他の街へ行こうなどという考えを持たないのだろう。
その通る人もいないかつて『ハイウェイ』と呼ばれた荒れた道を、一台の大型地上車が飛ばしている。
巨大なコンテナを引っ張っているところから、この車の持ち主はこの『西の大国』の街から街を渡り歩き、行った先々で何某かの稼ぎをあげることを生業としているのだろう。
些か年代物の地上車は、快調に荒れ野の一本道を飛ばしている。このスピードで走り続ければ、恐らく日暮れまでには『西の聖母の街』にたどり着けるだろう。そしてたぶん運転手自身もそれを望んでいることだろう。
が、快調に飛ばしていた地上車が、突然止まった。扉が開き、運転手が道へと降り立った。そして、自身が車を止めざるを得なかった『原因』に向かっておそるおそる、歩み寄る。
そこに転がっていたのは、黒ずくめの物体だった。いや、物体と言うのはまだ正しくない。それがまだ生きているか否か、運転手は確かめていなかったから。

運転手はそこに転がっている『モノ』をしげしげと眺めた。一体全体、何でこんな所に…そう言うかのように色の濃いサングラスをはずす。その下から現れたのは悪戯っぽく光る茶色の瞳だった。しっかりと作業着を着込んではいるが、まだ若い女性である。
無言のまま彼女は倒れ伏す『モノ』を見つめていたが、その行き倒れの肩が僅かに上下動しているのを認めると、諦めたように深々と溜息をつき、目深にかぶっていた野球帽を脱いだ。瞳よりやや暗い色合いの癖のある髪を掻き回しながら彼女は雲一つない青空に向かって絶叫した。
「馬っ鹿野郎ー!!」

絶えることのない振動、そして意識がはっきりしていくにつれ重いエンジン音が次第に大きくなっていく。その時初めて、彼は自分が何某かの乗り物の中にある簡易寝台に横たえられていることに気が付いた。
注意深く起きあがろうとしたところで車はひとしきり激しく揺れる。僅かに跳ね上げられた彼は後頭部をひどく壁にぶつけることとなった。
ようやく振動が収まる。どうやら停車したらしい。しばらくして前方の扉が開き、一人の女性が姿を現した。
「気分はどう?それよりあんた、何であんな所に寝てたの?そんな真っ黒な格好じゃ日焼けする心配は無いだろうけどこの炎天下じゃ暑いんじゃない?」
取り付く島を失って、彼は戸惑ったように数度瞬く。だが、女性はそれを無視するかのように矢継ぎ早に続けた。
「乙女のか細い腕だけで大の男のあんたをここに引き上げるのは大変だったんだから。お陰で日が沈むまでには街に着ける予定だったのに、遅れまくりだよ…え…と…」
一度言葉を切り、女性は『拾い物』をまじまじと見つめた。

その出で立ちは見事なまでの黒ずくめだった。黒い髪に、黒い瞳に、黒い服。
しかし、東方系の顔立ちをしているのかと言えば必ずしもそうではなく、抜けるような白い肌と鼻筋の通った顔立ちはどこか異質だった。計算されたかのように整ったその容姿はどこか作り物めいた印象を彼女に与えた。
そこまで考えが及んだところで、自身を見つめる視線に気付く。現実に引き戻された彼女は慌てて言葉を継いだ。
「あんた、名前は?」
突然の質問に、黒ずくめの男は首を傾げる。癖のない黒髪が僅かに揺れた。
「名…前…?」
間の抜けた返答に、彼女は頭を掻き回した。が、気を取り直してもう一度。
「言葉、わかる?…じゃあ、あたしは他の人間からはパットって呼ばれてる。つまりそれがあたしの名前。あんたはどうなの?」
「…それが名前かは解りませんが…皆は、私を…フォースと呼んでいました…」
「…フォース?」
男の言葉を、パットはしばらく反芻する。それから改めて彼女は、男を頭の先からつま先まで眺めやった。多少天然ボケの気があるが、悪い奴ではなさそうだ。
「じゃあフォース、あんたは何故あんな所に倒れてたの?」
パットの言葉に再びフォースは首を傾げる。
「覚えてないの?」
こいつはやばい。内心そう思いつつも、パットは引きつった笑みを浮かべ、先を促した。まるでバラバラに散らばったパズルの断片を拾い集めるかのように、彼はぽつりぽつりと口を開く。
「覚えていない…と言うより…解らないんです…ただ…」
フォースの黒い瞳が、言い難い光を放つ。その異質な美しさにパットは言葉を忘れ見入っていた。
「行かなければならないんです…そこへ…けれど…」
「それがどこか解らないわけ?…なんだかなあ…」
再びパットは再び頭を掻き回した。それにしても…男のこの格好、どこかで見たような気がする。だが肝心のどこかが思い出せない。これじゃ自分も対して変わらないじゃないか。そう考えると、思わず笑いがこみ上げてくる。きょとんとした顔でこちらを見つめるフォースに、彼女は徐に人差し指を突きつけた。
「じゃ、こうしよう。あたしはこれからこの道を真っ直ぐ行って『西の聖母の街』って所に行くつもりなの。当然乙女の一人旅はそれなりに危険でしょ?一応対策は立ててるけど、それだけじゃやっぱ少し不安だし」
パットの茶色の瞳が悪戯っぽく光る。
「これも何かの縁でしょ。あんたは自分の目的地が解るまであたしの用心棒ってことでどう?その代わりいろいろとやって貰うこともあるかと思うけど」
一応提案という形を取ってはいる物の、どこか有無を言わさない圧力があった。それに押されてフォースが思わず頷くのを確認すると、満足げにパットは膝を打ち、勢いよく立ち上がった。
「じゃ、決まりね。道中よろしく頼むわ」
差し出された手をおそるおそるフォースは握り返す。

長い旅路の始まりだった。

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