act6 Second day

 

「お兄ちゃんはどこから来たの?」
「お兄ちゃんはどうしてお姉ちゃんと来たの?」
「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」
子ども達に囲まれて、フォースはいつものどこか抜けた笑みを浮かべている。
正直パットにとってこれは大きな収入だった。一人でやっていると周囲を取り囲むお子さま達の相手をしながら仕事をしなければならないのだが、今回はそれらを全てフォースに任せてしまっている。
…思考回路が近いのか、単に子どもが好きなのか…
首を傾げながらも、ふとパットは視線を巡らせる。
彼らを取り囲む子ども達の群から少し離れたところに、その輪に入れずにいる子が一人いる。あれが昨日フォースが心配していた子なのかもしれない。でも…。
ふと、パットは不安に駆られた。こちらを伺う少年の視線は、羨望のそれはもちろんだが、それだけではない鋭さがあった。射抜くような、何か…。それが何であるのか気付きかけた時、大量のギャラリーがこちらに寄ってきた。
「何、何?どうしたのよ?」
「お姉ちゃん、今、お兄ちゃんから聞いたんだけど」
「お兄ちゃん、あっちの方から空飛んできたって本当?」
「はい?!」
とんでもない子ども達の言葉にパットは手にしていたドライバーを取り落とした。彼女はしばらくの間、言葉もなく地面に転がったそれを見つめていたが、徐にきっと顔を上げると、つかつかとフェースに向かい歩み寄った。
「ちょっとあんたねえ、何突拍子もないこと言ってるのよ!」
「…は?」
「は?じゃないでしょ?!ったく、空飛んできたなんて、背中に羽根でもはやして…」
そこまで言ったところで、パットは急に口をつぐむ。先日見た嫌な夢…父親の首を締め上げる黒い羽根を持つ男の姿が、何故かフォースと重なり、激しく首を振る。
「…一体どうしたんです?」
「…もういいわ」
気を取り直してパットは再び仕事に戻る。『仲間はずれ』の少年の姿は、既に見えなくなっていた。

その日の夜、昨日と同じように預かった修理品の山を整理している時のことだった。激しく扉を叩く音に、パットは訝しく思いながらも注意深くそちらに歩み寄った。
「何かご用ですか?本日の営業は終わったんですが」
けれど外からの返事はない。しびれを切らした彼女は恐る恐る扉を開いた。
「…あれ、君は昼間の…」
そこに立っていたのは、子ども達の輪に入れずこちらを伺っていたあの少年だった。ほっとしつつも、どうしたのこんな時間にと言いたげなパットに、彼は泣きそうな声で言った。
「あの…薬を持ってたら少し分けて…妹が…急に熱を出して…」
ついに我慢できず泣きじゃくる少年をなだめながら、パットは手持ちの薬箱の中身を反芻する。解熱剤は持ってはいるが、子どもに渡すには少し強すぎる。専門家ではないので下手に渡して妙な副作用が出るかどうかも解らない。…そうすると、残された方法は…。

それは町はずれにぽつりと建つ、かなり年代物の小さな家だった。事前に何の説明もなく引っ張ってこられたフォースは、瞬きをしながらそれを見つめる。
ここなの?との問に少年が頷くのを確認すると、パットは立ちつくすフォースの腕を取った。
「ほら、入った、入った」
「…え…?」
戸惑うフォースだったが、室内を一瞥してその表情は目に見えて変わる。やはりこぢんまりした室内には小さなベッドが置かれ、小さな女の子が寝かしつけられている。傍らに座る母親とおぼしき女性は、泣きはらした目でその様子を見守っていた。
「…どんな具合なんです?}
軽くお辞儀をしてからパットは少年の妹の額に手を置き、その熱さに思わず母親に向き直った。
「お医者は?なんて言っているの?」
パットの言葉に、母親は首を横に振る。訳が分からずただ立ちつくすフォースの背中を、少年が突っついた。
「医者なんて来てくれるはずないよ。…どうせ」
深刻な話題を前にして、なおもどこか抜けた表情を浮かべるフォースを、パットはぎっと睨み付けた。
「解った?だから今はあんただけが頼りなの」
「…頼り、ですか?」
まだ当を得ないようなフォースを、パットは引きずるようにベッドの脇に引き寄せる。高熱にうなされる少女をフォースはしばらく見つめていたが、やがてその手を取った。
「解りました」
ようやく自分に何が期待されているのかを理解したフォースが、低く呟く。それを確認すると、パットは不安げにこちらを見つめる母親と少年に釘を差した。
「いい?これから目の前で起きることを誰にも言っちゃ駄目よ。サービス残業なんだから」
室内が暖かい光に包まれる。
それが収まると、少女は何事もなかったかのように起きあがり明るい笑い声を上げていた。

next

back

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送