act8 Who's Enemy ?

問答無用で腕を掴まれ、連れて行かれた小さな部屋にうずくまる物を認め、パットは小さく声を上げた。
その様子に、常に無表情なはずのハンドレット達は僅かに笑ったようだった。
「馬鹿な奴さ。自分の立場を忘れて勝手なことをするから…」
「この街で起きた出来事を知る限り我々に報告する義務を怠った。当然の報いだ」
一瞬、力が弱まったハンドレットの腕をふりほどき、パットはぴくりとも動かない少年に駆け寄った。目に見える部分には等しくひどい痣や傷がまだ生々しく残っている。かがみ込むパットの気配に気が付いたのか、少年はうっすらと目を開けた。
「姉ちゃん…兄ちゃんは…?心配してるよ…早く…」
「あの天然なら一人でどうにか出来るって。それよりも自分の心配をしなさいよ」
言いながら彼女は血泥に汚れた少年の顔を拭ってやった。
「パット…パトリシア=フォールか…通りで…」
意味ありげに呟くハンドレットを、パットはぎっと睨み付ける。
「だったら何だって言うのよ?」
「お前と言い、お前の親父と言い、よほど我々に盾突くのがお好きなようだ」
「…何ですって?」
「お前は知らないか。無理もない。あの時はまだガキだったからな」
「だから何なのよ!?」
叫ぶパットに、ハンドレットは互いに笑いあった。対象を見下すような嫌な笑いだった。
「お前の家に押しつけられた『欠陥品』…あの逃亡に、お前の父親は一枚噛んでいたようだ」
「慈悲深い我らが主のお目こぼしで、お咎め無しとはなったがな…」
「お前は泳がされていたのさ。いつか必ずあの逃亡者が接触するはずだと…」
自分の耳に飛び込んでくる言葉を、パットは理解できなかった。いや、正確に言えば、理解しようとすると感覚の一部が急に麻痺する、そんな感じだった。頭の隅に、鈍い痛みが走る。
親父はあの時、確かに黒い羽根を持った男に首を締め上げられていた。
あの男は、夏に入る直前、親父の勤め先を統括する軍人が連れてきて…。
私は、親父がいない間は、あいつと一緒に…私は、あいつを…と呼んで…。
「敵襲!やっぱり来ました!!欠陥品登録番号1004…!」
室内に割れんばかりの音量で放送が入る。
だがそれもつかの間、すぐに耳障りな雑音に変わった。
「一体何事だ?」
「奴は来たんだろう?」
「外に配置したのは精鋭ばかりだ。それが何故…」
苛立たしげにハンドレットの一人が壁のスイッチを押す。すると正面の一部が明るく光り、外の様子を映し出した。

人相の悪いハンドレット達は等しく銃器を構え、取り囲んでいる者にねらいを定めている。その輪の中に所在なげに立ちつくしているのは、パットの言うところの『黒ずくめの天然ボケ』だった。しかし…。
全く動じる様子はなく、フォースはどこか冷めた目でハンドレット達を見やると、一歩足を踏み出した。その氷のような威圧感に、恐れを知らぬはずのハンドレットが僅かにたじろぐ。
気圧されたような空気に焦ったのか、指揮官とおぼしき一人が慌てて右手を振り下ろす。それを合図に一斉に引き金が引かれようとする。さすがのパットも顔を覆おうとした、まさにその時だった。
「〜〜〜〜っ!!」
声にならないハンドレット達の叫び声がスクリーンを通しても室内に溢れてくる。それこそドミノのようにばたばたと彼らは倒れていく。フォースの周囲を、あの不思議な光が包み込む。だがいつもの暖かく柔らなかなそれではなくて、怒りと悲しみに満ちていた。やがて、彼の背の部分の光がその密度を増す。
「あ…?」
倒れ伏したハンドレットの中心に立つフォースの背には、漆黒の翼があった。

next

back

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送