act9 Whose's Enemy ?

「何をしている!早く撃て!!」
その怒号に呼応するかのように、車載の機関砲がフォースに向けられる。冷たい視線でそれを一瞥する彼の手に光が集まる。いつしかそれは、不気味に光る巨大な鎌を形作っていた。
それとほぼ同時に一斉射撃が始まる。まるでスローモーションのように彼は鎌をふるった。無数の弾丸がフォースを目指して放たれてはいるのだが、一つとして彼に危害を加えるどころが到達することすら出来ない。バラバラという音と共に弾が地面にこぼれ落ちて散らばる。
一瞬、弾の補給のためか、斉射がとぎれた。
ばさり、と黒い翼が広がる。フォースの身体は、僅かに宙に浮く。と。閃光と同時にその姿は消えた。
「侵入!目標に侵入されました!!」
怒声とも悲鳴ともつかない報告が響く。
機関銃の音、拳銃の音が入り交じって周囲を埋め尽くす。だが、最初のうちこそ盛大だったそれは、次第に疎らになり、やがて水を打ったように静かになった。
次に聞こえてきた物は、ガチャガチャという装甲服の擦れあう音だった。銃撃戦から接近戦へ作戦を変更するようだ。確かにこんな狭いところで乱射しても流れ弾や跳ね返った弾で味方に被害が出るのがオチだ。いや、そんな基本的なことに気が付かなくなるくらいハンドレット達は焦っていたと言うことか。
けれど、白兵戦になれば多勢に無勢。加えてハンドレット達は筋金入りの生きた『兵器』である。体格一つ取ってみても圧倒的にフォースの方が不利だ。常識的に考えれば。
しかし、彼は普通ではない。少なくとも今の外見は。
ぐしゃり、という嫌な音がした。
良く小説で使われる『蛙を踏みつぶしたような』という形容詞そのままの声が、繰り返し響く。やがてそれらも絶えて静まり返った中、足音が次第にこちらへ近づいてくる。それはついにパットがいる部屋の前で停まった。
固唾を飲み込んで見守るパット、必死に身を起こそうとしている少年、慌てて銃を取り出そうとしている3人のハンドレット。等しく扉を見つめている。
「ぐわあああ!!」
前触れもなくハンドレットの一人が頭を抱え崩れ落ちる。我に返った残りの二人が、扉に向かって銃を撃つ。
持ち弾を全て撃ち尽くし、身構える両者。だが、次の攻撃は思いもかけない所から仕掛けられた。
「あぐっ!」
「げへっ!!」
背後から首を締め上げられて、ハンドレット達は等しく情けない悲鳴を上げる。
今まで倒れていたはずのハンドレットが突然、仲間に組み付いたのだ。目の前で起きた仲間割れに、パットは言葉を失う。
やがて、力つきた二人が床に投げ出されると、穴だらけになった扉が静かに開いた。立ちふさがる敵を切り伏したであろう巨大な鎌は、再び光となって消えた。忘れたはずの恐怖に身を固めるハンドレットを、彼は氷のような目で見据えた。
「…戻って主に伝えろ。この街には何もなかった、皆はシステムの暴走で勝手に殺し合った、と…」
冷たい声がその口から漏れる。夢遊病者のようにふらふらと出ていくハンドレットを見送るパットの視線と、フォースのそれとがぶつかった。底のない深淵のような、黒い瞳だった。
「…兄…ちゃ…ん?」
かすれた声で呟く少年の脇に、フォースは静かに跪く。
「すみません…辛い思いをさせました…もう大丈夫ですよ」
言いながらフォースは少年に手をかざす。暖かい光に包まれると、それまでの苦悶の表情は穏やかな寝顔に変わっていた。
「…フォース…?}
パットの呼びかけに、フォースは顔を上げる。深淵のような深い漆黒の瞳が彼女を捉えた。ふとその中に吸い込まれていくようにパットは感じた。緊張がとぎれたかのように、パットは倒れ伏した。
折り重なるパットと少年をフォースは無言で見つめていたが、二人をそれぞれの腕に抱き上げた。
金属質の嫌な匂いが充満する装甲トレーラーを抜け出、彼は地面に降り立った。
既に夕闇に閉ざされた中、二人を抱えたフォースは大きく息をつく。黒い翼が広がる。その身体は音もなく浮き上がり、いつしか闇の中へと溶け込むように消えていった…。

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