act11 the Truth

その日から奇妙な共同生活は始まった。
成り行きでフォール家にやってきた男は、主の思いつきで『フォース』と呼ばれるようになり、細かいことを気にしない主の性格も手伝って、気が付けばすっかり家族の一員になっていた。
何故、この男が軍需工場にいたのか、そしてあの嫌な軍人からあのような仕打ちを受けていたのか、パトリシアは知る由もなかったが、ある時思いもかけずその片鱗を目の当たりする事となった。
慣れない手つきで夕飯の支度をしているとき、不注意で手を切ったパトリシアに、フォースは心配そうに駆け寄った。
「大丈夫。そんな深くもないし、後でちゃんと消毒しておくから…」
言いかける当の本人には耳を貸さず、彼は僅かに血の滲むてを優しく取り、自らの掌でそっと包み込んだ。気のせいか、僅かに柔らかな光が溢れるような気がする。
「…え?」
改めてその手を見、パトリシアは目を疑った。先程まで開いていた傷口は跡形もなく消え去っている。
「…凄い…」
尊敬にも似た眼差しを向けられて、フォースは困ったように僅かに笑ってみせる。そして誰にも話さないで下さいね、と付け加えた。
…だが、穏やかな暮らしは程なくして残酷な結末を迎えた。
何時になく深刻な顔をして帰宅した父親は、殆ど口をきくことすらなく、早々に自室へと引き上げた。不安に思いながらも床についたパトリシアは、しばらくしてから物音を感じ、ベッドからすべりおりた。
廊下に出ると、僅かに開いた父親の部屋の扉の隙間から、父親と『フォース』とが言い争う声が漏れ聞こえてくる。
…私には、出来ません…そんな…
…を守るためなんだ…のが心苦しい…頼む…
途切れ途切れに聞こえてくる切迫した声。漏れ伝わってくる緊迫した空気。そして…。
父親の足が、次第に宙に浮く。その顔が徐々に紫色に変色していく。声を出すことも出来ずに座り込むパトリシアと、フォースの視線がぶつかった。
絶望と、謝罪と、悲しみ。
そして、彼の背に漆黒の翼が広がり…

「行かないで!!」
自分の叫び声に、パットは目を覚ました。注意深く起きあがり、周囲を見回す。
そこは紛れもなく、トレーラーハウス内の自分の部屋だった。
恐る恐る部屋の外へ足を踏み出すと、真っ暗な廊下の突き当たり、食堂兼居間の扉の隙間から僅かに光が漏れている。
意を決して歩み寄り、扉を押し開く。が、予想に反して、そこには誰もいなかった。気が抜け、パットはそのままソファに座り込んだ。
一人になると、今まで忘れていた静けさが四方八方から襲ってくるような気がする。そんな気持ちに囚われて、彼女は耳をふさいだ。
その時、ばさり、と大きな羽音がした。息を殺し、身を固め、パットは扉を見つめる。しばらくして扉は音もなく開き…どこか間の抜けた表情を浮かべた黒ずくめの男が、姿を現した。その背にはもう翼はない。
「…彼を…家に送ってきました。…遅くなってしまって…」
「…嘘つき…」
気まずそうに言うフォースに、パットは一言、言った。
戸惑い、瞬きを返すフォースを見つめるパットの目から大粒の涙が零れる。
「何が、何にも覚えていない、よ…!」
泣きじゃくるパットに歩み寄るフォース。困ったような彼に、パットは思わず抱きついていた。
「…やっと、思い出してくれたんですね…パトリシア…」
静かな声に、パットは顔を上げる。目の前にあったのはやはりどこか抜けたような笑みを浮かべるフォースの顔だった。

「嘘をついていた、と言うわけではなくて…今でも何故あの時、あそこにいたのか、自分でも解らないんで…」
ようやくパットが落ち着いた所で、フォースは静かに切り出す。当のパットはクッションを抱え込み、その言葉を一言も聞き漏らすまい、としていた。
「覚えていたのは、私が何をしてしまったのかと、それを償わなければならないということと…」
深淵のような漆黒の瞳を向けられて、今度はパットが瞬きを返す。
「あの時…親父は一体、何を言っていたの?」
その問いかけに、フォースは目を閉じ、首をゆっくり左右に振った。あの時のことを思い出し、反芻しているかのようだった。
「おぼろげだけど覚えてる。あの後すぐ、ミリオンの反乱があって…軍人は親父の嫌な上司ももれなくハンドレットに粛正されて…何故かうちは、何もされなかったんだけど…」
「ミリオンが手に負えなくなってきていて…軍は、ミリオンと同じ力を持つ私を、再び接収しようとしていたんです。ジョンは…それだけはどうしても避けたいと…」
「ミリオンと…同じ…?あんた、一体…?」
まじまじと自分を見つめるパットに、フォースは寂しげに笑った。
「私は、管理登録番号1004…ミリオンの制作過程で生まれた欠陥品の一つです」

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