act12 the Truth 2

言い終えてから僅かにうつむくフォースをさらに穴の開くほど見つめ、パットは戸惑ったように言う。
「ミリオンの欠陥品って…それよりも接収って、何よ…」
「簡単に言えば、一度用済みとして処分した物を再利用しようとした、という所でしょうか」
殺伐とした話であるにもかかわらず、フォースの口から出るとどこかやはり間が抜けている。だがそのお陰で嫌な想い出を突きつけられても、重苦しさにつぶされずにすんでいるのかもしれない。彼女はぼんやりと思った。そんなパットの頭上を、フォースの声が通りすぎる。
「覚えては、いないですか?あの日のこと…」
僅かにフォースは首を傾げてみせる。そんな頼りなげな顔を見つめながら、パットは『あの夜』のことを必死に思い出そうとしていた。

…その日、珍しく早く戻ってきたジョンは、何時になく無口でどことなく落ち着かない様子だった。
半ば上の空で食事をとり、殆ど口をきくこともなく二階の自室へと引き取った。
…まずいことになりそうだ…
こうなる直前の日曜日。休日なのにも関わらず職場からかかってきた電話を切るや否や、彼は低い声で呟いたのを、パトリシアは少し気にかけていた。そして、今日である。
「…何かあったのかしら…」
不安を紛らわせようとパトリシアはテレビのスイッチを入れてみる。だがどこのチャンネルを回してみても、別段重大な事件や事故が起きているような気配はない。それが逆に不気味でもある。
「後で…様子を見てみましょうか?」
遠慮がちに切り出すフォースに、彼女は涙を堪えながら頷くのが精一杯だった。

「そうよ…確かそんなことを言ってたかも…まずいことになるって」
行儀悪くソファの上に胡座をかきながら、パットは記憶を反芻するように呟いた。その言葉を裏付けるように、フォースの言葉が被さってきた。
「丁度あのころ、完成品…登録番号1万番台の一部が工場を脱出し、試作品…100番台をほぼその管理下に置いたんだそうです」
1万番台って言うのがミリオンで、100番台がハンドレットね、あたし達が言うところの。そう確認するパットに、フォースはこくこくと頷いた。
「でも、それとあんたと何の関係があるの?だって、あんたは欠陥品だって、自分で言ってるじゃない」
聞きようによっては相手を傷つけるであろう一言を、パットは悪びれもせず口にする。言われる側はそれに気付いているのかいないのかは定かではないが、ゆっくりと首を左右に振った。
「確かに、私はミリオンの欠陥品です。けれど、欠陥はあくまでも私の容姿というか、見た目…外見だけであって、」
不意に、黒曜石のようなフォースの双眸に鋭い光が宿る。パットは魅入られたように身動きを取ることができずにいた。
「能力その物は、完成品…ミリオンと全く同じなんです。なので、開発者達は、完成品に対して全く同じ力を持つ私たちで対抗しようとして…」
「ちょっと待って!」
ようやくのことでパットはフォースの言葉を遮る。何時になく深刻な面差しのパットに、僅かにフォースはどうしたんですか、とでも言うように首を傾げて見せた。抱え込んだクッションに視線を落としながら、固い声でパットはつぶやくように言った。
「じゃあ、何?親父の上役達は、あんたみたいに黒い髪に黒い目だからとか、そんな下らないことで…」
「彼らは、古の絵画に描かれた完璧な『天の使い』を作ろうとしていたんですよ。…貴女が以前会ったミリオン達は、どんな容姿をしていたか、思い出して頂ければ解ると思うんですが」
その言葉に、パットはあっ、と息をのむ。確かに、おぼろげながら似覚えているミリオン達は、皆創られたように(事実創られたモノなのだが)揃いもそろって見事な金髪碧眼、そしてひびのない白磁のような肌の色をしていた。そんなパットの様子を見やり、黒い髪や、黒い肌をした天使の絵なんて、あまり見たことはないでしょう、と言い、フォースは寂しげに笑った。
「私のように髪や目や翼や肌の色が、彼らが望むそれと違っている者は…欠陥品として容赦なく実験の材料になっていたんですよ…たまたま、ジョンはその現場に踏み込んで、私の保護を訴えてくれたんですが…」
もしジョンに出会っていなかったら、様々な実験を施されて、最終的には細胞のレベルにまでバラバラにされていただろう、寂しげな笑みのまま、フォースはパットに告げた。
「いわば、ジョンは私の恩人です。その恩人を、私は…私は彼自身の望みとは言え、この手に、かけてしまった…」
「親父が…?あの親父が、あんたに自分を…殺してくれって…頼んだの…?」
かすれる声で問うパットの唇は、僅かに青ざめている。フォースは頷くと、両の手を固く膝の上で握りしめ、目を固く閉ざした。
「もうすぐ、軍がやってくる。いや、もしかすると、ミリオン達の方が先かもしれない。どちらにせよ君の運命は決まっている。…だが幸いどちらも表向きは慈悲深いと言う仮面をかぶっている。君と、パトリシアを助ける方法はただ一つしかない。…私を殺して、ここを立ち去りなさい…」

 

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