act13 He said that...

「…私を殺して、ここを立ち去りなさい…。君とパトリシア、両方を助けるにはこれしか方法がない」
「そんな…私にそんなことができるとでも思っているんですか…?!」
沈痛な面もちで叫ぶフォースに、ジョンは既に決意を固めた意志の強い視線を向けた。
「君が軍に連れて行かれれば、我々はミリオン達に反逆者として扱われる。例え軍の側が勝利を収めたとしても、君は再び実験材料とされてしまうだろう。君をミリオンに差し出したとしても、我々は裏切り者として軍から始末され、君も『彼ら』からどう扱われるか…」
どちらに転んでも八方ふさがりなんだ、それならば何もしないでいるよりも、何かした方が良い。吹っ切れたように笑顔を見せるジョンに、だがフォースは食い下がった。
「私がここにいるのが原因ならば…その原因である私を消してくれれば良いのではないですか?…貴方もパトリシアも、その術を手渡されているはずでしょう?」
言いながら、フォースは両手首をジョンの前にかざす。度々高圧の電流を流され続けたため、焼けただれた皮膚、そして、しっかりと電子錠が下りた戒め。その言葉に応じるように、ジョンはポケットから小型のリモコンを取り出した。覚悟を決めたのか、目を閉じるフォース。けれど次の瞬間、ごとり、と言う重い音が二つ、静かな部屋の中に響いた。
「…何故…こんなことを…」
唖然としながらも、フォースは解放された両手首を見やる。寂しげな表情を浮かべたジョンは、リモコンを床の上に置き、勢い良く踏みつぶした。
「奴らのことだ。こいつに発信器でも仕込んでいたんだろう。…まあ、これでレーダーによる君の感知は不可能になった。君の力を持ってすれば、ハンドレットやミリオンから逃げおおせることは可能だろう?」
さあ早く、もう時間が無い。立ち上がるジョンに、フォースは激しく首を左右に振った。
「なんと言われてもできません…そんな、恩人を手に掛けるようなことは…」
「君とパトリシアを守るためなんだ、頼む…君を助けると言って連れ出し、こんな思いをさせて、…そして何より、あの子を残していくのは心苦しいんだが…頼む」
穏やかなジョンの視線が、黒曜石のようなフォースの瞳を正面から見据えた。そこにはもう迷いも後悔も見いだせなかった。何者にも変えることのできない決意だけがそこにあった。静かに、フォースはジョンに歩み寄る。
「…できれば…できれば君が自由に空を飛ぶところが見てみたかったな…」
それこそ天使みたいだったろうに、そう冗談めかして言うジョンに、フォースは泣き笑いのような表情を浮かべて見せた。
「私は、残念ながら翼も黒いので…天使と言うよりは堕天使でしょうけれど…」
うなずき、ジョンは目を閉じる。その目尻から二筋の涙がこぼれ落ちた。ありがとう、そして、すみません、小さく呟きながら、フォースはその首に手をかける。程なく、恩人の足は床を離れ…扉の向こう側から引きつった悲鳴が聞こえた。
パトリシア…?その声の主を認め、反射的にフォースは手を離した。ゴム人形のようにジョンの身体は床の上に崩れ落ちる。怯えきった少女に、一瞬フォースは視線を向ける。ここで何を言ったとしても、彼女は受け入れてはくれないだろう、ならば遺言を守らなければ…。
淡い光が、フォースを包む。呼応するように黒い翼が、その背に広がった。窓に歩み寄り、彼はその身を躍らせる。漆黒の翼は始めて風を孕み、彼の身体を宙へと舞い上がらせた…。

 

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