ANOTHER LINKS〜the dolls〜 act2

 

「発端はMカンパニーの進出とも言われており、行政面だけでなく経済面からの圧力も甚だしくなったことより、不満分子の暴走が激化したと考えられます」
フォボスに向かうにはまず母星たるマルスから船を乗り継がなければならない。そのマルス行きの船内でスミス少佐は『彼』にマルス及びフォボスの政情を説明するよう求めた。釈然としない物を感じながらも生真面目にも『彼』は事前にインプットされていた情報を諳んじる。
「不満分子の背後にいるのは?デイヴィット=ロー中尉」
一方的に説明を求めておきながら素っ気なくスミスは尋ねた。その質問の末尾に申し訳程度に付け足されたのが『彼』に与えられた『名前』である。
それにしても。薄暗い宇宙船内だというのにこの『試験官氏』は相変わらず怪しげなサングラスを外す気配はない。愛想の欠片も感じられない口調も手伝って、有能な情報局員と言うよりは、むしろ裏を知り尽くし幾度となく死線を越えてきた工作員と言った様相である。
「当人達はルナのI.B.との共同戦線であるとの主張からM.I.B.(マルス・イレギュラー・ブレイン)と名乗っていますが、その信憑性は薄いとの推測が主流となっています」
教科書通りの彼の返答に、試験官氏は一つ頷いた。だがそれが試験官氏の期待に添った結果かどうかは定かではない。またしてもサングラスにより、その真意は遮られてしまった。
「で、君はどう思うのかね?やはり信憑性は薄いと見るかな?」
そのサングラスを突き抜けて鋭い視線を突き刺すと同時に、予想だにしない質問をスミスは投げかけてきた。一方受ける側は、突然のことに2.3度瞬きした。無理もない。彼に与えられている情報はあくまでも『判断と分析の結果』である。
返答に窮し沈黙する彼に、スミスは唇の端を僅かにあげた。表情の変化に乏しい試験官氏の、これが微笑である。
「君に今欠けているのは『経験値』だ。場数を踏めば自ずと判断の根拠となるデータも増えてくる。『情報』を『忘れる』ことがない分、我々が行うよりもはるかに適切な判断が可能となるだろう」
神妙な面もちで彼は頷く。だが内心その言葉に反論していた。彼に出来るのは0と1とで割り切ることの出来る計算だけだ。計算はあくまでも計算であって、柔軟性を必要とする『判断』とは異なるのではないか。その無言の返答をどう取ったのか、スミスはさらに続けた。
「…まずは見た目に惑わされぬことだな。外見から得られる情報のみに頼れば、必ず足をすくわれる」
再び彼は頷いてから、彼はその言葉をすぐに実行に移すべく、悟られぬよう試験官氏の再分析を開始した。そして、ふとあることに気が付いた。
まず、初対面時の強烈な印象にとらわれていたが、声の調子は『冷酷』と言うよりは『冷静』の部類に入る。いや、正確に言えば声に『感情』と言う物が見られないのだ。
これも場数を踏んだ修行の結果か。そう納得しかけたとき、不意に船内の明かりが落とされた。反射的に天井を見上げる彼に、試験官氏は告げた。
「夜間シフトに入ったようだな。しばらく休憩とするか」
言いながらスミスはシートを倒した。しばしの仮眠を決めこんだらしい。取り残された方は何をするでもなく周囲を見回していたが、ふと試験官氏の呼吸が穏やかな寝息に変わったことに気が付き、改めてその顔を観察することにした。
相変わらずのサングラスである。眠るときぐらい外せばいいのに、などといらない心配をしながら、彼はふとそれを外してみたいという欲求に駆られた。そして間近からその顔をのぞき込んだとき、その思いは霧散した。
眉間のあたりだろうか。ずっとほくろだと思っていたそれは、よくよく見ると小さな傷跡だった。怪我を縫ったと言う物とはまた異なる。その大きさから彼がはじき出した結論は…カテーテル挿入を伴う脳手術跡。しかし、彼は自ら導き出した結論を鵜呑みに出来なかった。何故ならこの場所に該当する病名が彼には思い当たらなかったのだ。何より急所に近い位置からの手術は、危険を伴いこそすれ、利点をあげることが出来ない。
全てが解らない。
謎に包まれた試験官氏を、彼はまだ掴み切れてはいなかった。

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