ANOTHER LINKS〜the dolls〜 act11

「まだ見つからないのか?」
轟音と振動を立てながら瓦礫を運び出していく重機を見やりながら、常時からは想像もつかないような苛立った声を桐原は張り上げていた。緊急の本部からの召集で、否、それ以前のすざましい爆発音で叩き起こされてから、寝不足という事実を差し引いても彼の姿は周囲からは過度に焦って見えた。
「ですが…建物がこのような状況では…お二人とも絶望と考えていただいた方が…」
「ならばその証拠を早く見せろ!」
不機嫌を全く隠そうともせず、恐縮しきりの現場担当者を怒鳴りつけてから、桐原は煙草に火を付けその煙を深々と吸い込んだ。若干気持ちが冷えてくると、今度はいい知れない不安が頭をもたげ始めた。
…誰が…話が違うじゃないか…一体どの分派がこんなことをしでかしたんだ…
そこまで考えが及んだ所で、ふと桐原は周囲を見回して大きく息をつく。そして、自らの心中の声が漏れ聞こえてないことを確認すると、安堵するかのように再び煙草の煙を吸い込み、今一度思考の海に沈んでいった。
M.I.B.を詐称するマルスからの独立を大義名分に掲げたこのテロ集団は、現地の惑連でも把握し切れぬほどの細かい分派に別れている。その中で尤も危険視されているのが組織の中で第二位の地位についている人物に率いられた派閥であり、その人数も尤も多い。今回事件を引き起こしたのも当初はこの派によることかと当局は考えていた。だが…。

「考えられるのは組織内の権力争いだろうな。一分派が今回の事件を起こした。しかしその考えに相容れない分派が存在した。そんなところだろう…。だが、今回はどうだろな。そうだとしたらこの攻撃の説明をどうつけるか…」
珍しく饒舌な試験官氏の言葉に、デイヴィットは片付けの手を休めることなく聞き入る。そんなギャラリーの様子を知ってか知らずか、講演者は淡々とした口調で続ける。
「…事件を起こしたのは主流派に取って代わろうとした小分派。だが主流派の方針とはかけ離れていたため、見せしめのため和平交渉をぶちこわそうとしてホテルを攻撃…」
「じゃ、交渉が成功して人質が解放される可能性は、最初から無かった、と言うことですか?」
「五分五分だろうな。…どちらにしても我々としては取られ損だ。人質が解放されても組織自体が無くなるわけではないのだからな」
相変わらずの毒舌にデイヴィットは閉口する。そうする間にすっかり片づいた冷たい床の上に。彼は試験官氏に向かい合って跪いた。
「取りあえず、このくらいならば問題ないでしょう…重機で天井を落とすときに瓦礫が落ちてくると思いますので…で、移動先なんですが」
そう言いながらデイヴィットは自らの『腕時計』を示す。それまで無機質にデジタル表示で時を刻んでいた文字盤に、突如として方眼が浮かび上がる。持ってきていた地図や端末がすべて瓦礫の下敷きになってしまった今となっては、この超小型コンピュータだけが唯一自分たちの正確な所在地を知らせてくれる物であり、生命線であった。
…尤も、デイヴィットにはこんな物は必要ないのだが、『生身の』人間であるスミスに効率よく説明するには不可欠な物である。その方眼の上には、二つの光る点があった。
「現在地はこの赤い点です。この青い点の方に移動します。…テラの上層が抑えている物ですので、桐原さんはもちろん、マルスの惑連にも知られていません」
予想されるであろう質問に先回りして答えてしまう当たり、自分もだいぶ教育されてきたようだ。そう思いながらデイヴィットは試験官氏の反応を伺う。無言のままそれを見つめていたスミスだが、やがて唇の端に僅かに笑みを浮かべた。
「…どちらにせよ選択肢は限られているんだろう?ここで発見されるのを待つか、市内に潜伏するか…君の希望を叶えるには、私に聞くまでもなく後者だろう」
「…桐原さんやM.I.B.から逃れるには、ですか」
言いながらデイヴィットも少し笑ってみせる。多少その時、スミスの笑い方を真似てみたのだが当の本人がそれに気が付いたかどうかは不明だった。しばしの沈黙が流れる。それを先に破ったのはスミスの方だった。
「…移動を開始するとしよう」

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